コラム

もし病気が進行してしまったら……事前に考えておきたい「延命治療」の選択

この記事の内容

シニア世代になると、命にかかわる病気にかかる場合が出てきます。とくに病気が進行すれば、もうこれ以上、回復の見込みがなくなってしまうといったことが起こり得ます。そのときは、できるだけ命を永らえさせる「延命治療」をおこなうか、あるいは、延命をせずできる限り自然の流れに身を任せるかという選択をするケースが出てきます。

別の記事でご紹介している終末期医療とおなじく、延命治療も自らどんな医療を受けどんな最期を迎えたいかという意思表示が必要です。今回は、延命治療では何がおこなわれるのか、事前に意思表示をする方法をご紹介します。

[終末期医療について、くわしく知りたい方はこちら]

延命治療の具体的な処置

そもそも延命治療とは「生命維持処置を施すことによって、それをしない場合には短期間で死亡することが必至の状態を防ぎ、生命の延長を図る処置・治療のこと」を指します。具体的な治療方法としては、人工呼吸器による延命処置、点滴や胃ろうといった人工栄養法による処置、人工透析などが存在します。

「人工呼吸器」は呼吸機能が著しく低下し、自力でのガス交換ができなくなった場合に用いられるものです。いわば強制的に呼吸を維持させているのとおなじ状態であるため、回復不能な状態の場合は人工呼吸器を取り外すと生命が維持できなくなることを意味します。

「人工栄養法」は自力で食べ物や飲み物を飲み込めなくなった場合に、点滴や胃ろうによって栄養と水分を人工的に取り入れて生命機能を維持する方法です。ちなみに、胃ろうとは腹部に小さな穴を空け、胃の中にチューブから直接栄養を摂り入れる処置のことを指します。

「人工透析」は、腎臓の機能が低下したときに血液の老廃物を除去し、水分量や電解質などを維持するためにおこなわれる処置です。

これらはいずれも生命を維持するうえで必要な処置ではありますが、回復の見込みがない場合には、どこまで延命するのかは本人または家族の判断に委ねられます。

シニアは延命治療をどう考えている?

少子高齢化が進む日本において、シニア世代は延命治療に対してどのような考えをもっているのでしょうか。

2017年に内閣府が発表した「高齢社会白書」によると、65歳以上のシニア世代のうち91.1%の人が「延命のみを目的とした医療はおこなわず、自然にまかせてほしい」と回答していることがわかりました。ちなみに、2012年度の調査ではおなじ回答をした人の割合が87.7%、2007年度は81.1%であったため、延命治療を望まないシニアが増えていることがわかります。

また、「すこしでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と回答した人の割合は年々低下し、2017年度は4.7%となっています。以上のことを踏まえて考えると、人々の延命治療に対する考え方が変化しているのがわかります。

延命治療をするメリットとデメリット

延命治療にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。延命治療をするか否かの判断にあたって、参考にしておきたいポイントをまとめました。

延命治療をするメリット

人によっては、先述した人工栄養や人工透析で年単位の余命延長があったり、中には状態が改善するケースもあります。そうすれば、生きているあいだにやっておきたいことに取り組めます。たとえば、これまでお世話になった人に感謝の気持ちを伝える、家族との時間を楽しむ、相続で問題にならないように整理しておくなどをおこなえます。

このように延命治療を行うことで、生活の質の改善が見込めるケースもあり、そのような場合は延命治療のメリットが相対的には高くなります。一方で、終末期の人工呼吸器や、余命数週間の人工栄養などは挙げたようなメリットを享受するのが難しく、どのような、またどれくらいメリットがあるのかを十分医療者と相談するということが大切になります。

延命治療をするデメリット

延命治療のデメリットとしては、患者本人の意思が尊重されない可能性があります。たとえば重度の病気で意思疎通が難しい場合、「リビング・ウィル」という事前指示書があれば延命治療を拒否する意思志を示すことができます。しかし、リビング・ウィルを事前に用意していたり、家族と十分相談していたりするケースは少なく、本人の意思が不明なまま延命治療を選択せざるを得ないケースが多いのです。

その結果、家族に対して延命治療の判断が委ねられることになりますが、延命治療を中止する決断をくだす際に「本当にこれでよいのだろうか」「本人の意思に反していないだろうか」と考え、心理的に大きな負担や苦痛を強いられることも少なくありません。

また延命治療のための入院期間が長くなればなるほど費用がかさみ、経済的な負担も大きくなるのもデメリットの一つとして挙げられます。

望みどおりの人生の最後を迎えるために

家族に対して負担をかけず、自分自身が望む人生の最後を迎えられるようにするためには、どのような準備が必要なのでしょうか。

まず、先ほども紹介したように、リビング・ウィルとよばれる事前指示書を用意しておくことが何よりも重要です。これは、延命治療を施すか否かを患者本人の意思として表す書類なのですが、さまざまな状況やパターンにあわせて選択します。

千葉大学病院では「私の診療に関する希望書(事前指示書)」としてフォーマットの一例を公開しています。このなかには、「ひどく具合が悪くなったときに自宅で最期を迎えるか、または病院で治療を希望するか」を選択できるほか、もし病院での治療をおこなう際にも、以下の延命治療を施すか否かを患者本人が選択できるようになっています。

  • 心肺蘇生(心臓マッサージなど)

  • 栄養(胃ろうなど)

  • 注射(点滴など)

  • 輸血

  • そのほかの希望

また、事前指示書とおなじようなものとして「尊厳死宣言公正証書」もあります。これは患者本人が延命治療を希望しない旨を外部に宣言するための書類で、公証役場や行政書士事務所などに依頼することで作成できます。

最近の考え方では、書類作成そのものよりも、いざという時の代理人を決めて、家族皆で十分それを相談することやそのプロセスが重要だとされています。そのような機会を、ご家族が集まる際に持つこともとても大切だといえるでしょう。

延命治療をしない場合におこなわれる医療

患者本人が延命治療を希望しない場合であっても、医師は患者本人の痛みや苦痛をやわらげるために緩和ケアとよばれる処置や治療をおこなうのが一般的です。具体的に提供される医療に次のようなものがあります。

通院による医療

病気ががんの場合は、緩和ケアを目的とした専門の外来がある医療機関も多く、定期的な通院によって患者本人の苦痛を和らげるための処置をおこなうケースもあります。緩和ケアの重要なポイントは、病気そのものの治療を目的としているのではなく、鎮痛薬やその他の薬を用いることで、痛みや他の様々な苦痛を和らげることに主眼が置かれている点にあります。

ちなみに、緩和ケア外来が設置されていない医療機関の場合は、ほかの医療機関の緩和ケア外来に通う選択肢もあります。

緩和ケア病棟への入院

病気ががんの場合は、進行度合いや患者本人が訴える痛みやつらさの程度によっては、通院ではなく入院による緩和ケアが行われる場合もあります。入院といっても一般的な病棟とは異なり、症状緩和の専門家がいて苦痛緩和に携わってくれて、、患者本人にとってもストレスが比較的少ないことが特徴といえるでしょう。

在宅療養

患者本人の希望によっては、在宅での療養も選択できる場合があります。住み慣れた自宅はストレスも少なく、患者本人にとっての精神的負担を和らげてくれるでしょう。もちろん、自宅療養中に容態が変わったり、自宅介護が難しくなった場合には通院または入院による緩和ケアに切り替えることも可能です。

自分の最期を考え、意思表示しよう

延命治療を「する・しない」の選択にあたっては、その人自身の考え方や方針が尊重されるべきものです。しかし、病気の進行状況によっては意思表示が難しくなるケースも想定されるでしょう。まずは自分にとっての最期はどのようなものであるべきかを考え、健康なうちに家族皆で十分このようなことを話しあい、事前指示書や尊厳死宣言公正証書を作成しておくことが重要です。


なお、「楽クラライフノート」では治療中の病気について記録できるほか、メモ欄に家族への思いを書き残しておくこともできます。家族との情報共有のツールとしても利用できるため、ぜひ活用してみてくださいね。記入して、それを話しあう材料にするなども有効な活用法だと思います。


(執筆編集:NTTファイナンス ライフノート編集部 情報は2021年6月10日時点のものです。)

この記事を監修した人
大津 秀一

早期緩和ケア大津秀一クリニック院長。岐阜大学医学部卒業。緩和ケア医。日本緩和医療学会 緩和医療専門医、総合内科専門医、がん治療認定医、日本老年医学会専門医、日本消化器病学会専門医。内科医、ホスピス医、在宅医を経て大学病院緩和ケアセンター長を務める。2018年に早期からの緩和ケアに特化したクリニックを設立、全国からの相談にあたっている。著書に『死ぬときに後悔すること25』(新潮社)、『傾聴力』(大和書房)などがある。

https://kanwa.tokyo/

https://www.youtube.com/c/kanwa

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