いまからできる相続準備!家族のためにしておきたい5つのこと
遺言書に関する基礎知識|正しい書き方や保管の仕方
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この記事の内容
1984年山口県宇部市生まれ
明治大学法学部、明治大学法科大学院卒業。
弁護士登録後に法律事務所にて執務したのち、
相続と不動産(賃貸借、使用貸借、共有)に関し、
現在は東京都の赤羽、埼玉県の大宮にオフィスを有し、
弁護士としての信条は、「誰が何と言おうとあなたの味方」
この記事をおすすめする人 家族に対して、相続に関する遺言を残したい方 この記事のポイント
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終活のなかでも、自分の意思を記した「遺言書」はとても重要な役割を持ちます。万が一が起こった場合に備えて、遺言書はできるだけ早めに用意しておきたいと考える人も多いのではないでしょうか。
楽クラライフノート お金と終活の情報サイトでは、これまでも「遺言書を書きのこしておくことの大切さ」について、記事のなかでたびたび触れてきました。では、実際に遺言書を書きのこす際には、どのように書けばよいのでしょうか?
この記事では、いざ「遺言書を書こう」と思い立ったときに参考になる、遺言書の作成方法や保管の仕方のポイントを解説します。
遺言書とは
日本公証人連合会では、「遺言とは、自分が生涯をかけて築き、かつ、守ってきた大切な財産を、もっとも有効・有意義に活用してもらうために行う遺言者の意思表示」であり、「遺言者自らが、自分ののこした財産の帰属を決め、相続をめぐる争いを防止しようとする目的」があるとしています。
(参照:日本公証人連合会「2 遺言」)
つまり遺言書は、被相続人(亡くなった人)が、相続をめぐる家族同士のトラブルを未然に防ぐため、自分の財産を「だれにどれだけ相続させるのか」を生前に記した文書だといえます。
「遺言」の読みかたは、「ゆいごん」が一般的ですが、法律家や相続に関わる専門家は「いごん」という読みかたをするケースも多く見られます。一般の言葉と法律上の言葉を区別するうえで使い分けているという目的があり、どちらも間違いではありません。
まず知っておきたい3種類の「遺言書」
遺言書には、その作成方法・保管方法などによって、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
3種類それぞれの特徴を確認して、どの方式で書くか選ぶ際の参考にしてください。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
作成者 | 本人 | 公証人 | 本人(代筆可) |
費用 | なし | 財産の額に応じた手数料が必要 | 一律11000円の手数料 |
保管方法 | 本人が保管 | 公証役場が保管 | 本人が保管 |
証人 | 不要 | 2人以上必要 | 2人以上必要 |
検認 | 必要 | 不要 | 必要 |
自筆証書遺言
「自筆証書遺言」とは、遺言者本人が手書きで作成する遺言書です。日付や氏名、遺言の内容など全文を自筆で記す必要があります。2019年1月以降は財産目録のみ、パソコンや代筆でも作成可能になりました。ただし、財産目録が複数ページに及ぶ場合にはすべてのページ、両面に記載がされている場合には財産目録の両面に遺言者の署名と押印が必要です。
用紙やペン、縦書き・横書きなどにも規定がなく、もっとも気軽に作成できる遺言書ですが、その分、偽造や書き換えには注意する必要があります。また、開封の際には、偽造や書き換えを防ぐため、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を受ける必要もあります。
自筆証書遺言の主なメリットは、
作成費用がかからない
いつでも書き直しが可能
自分以外に遺言書の内容と存在を知られないようにできる
その一方で主なデメリットは、
無効にならないよう書きかた・書き損じには注意が必要
代筆が不可なため、自筆できる状態ではない場合は作成できない
遺言書の紛失や隠匿・他者による書き換え・偽造のおそれがある
公正証書遺言に比べ、遺言の有効性自体について死後に争いになる可能性がある
などがあります。
自筆証書遺言書保管制度
2020年7月から、自筆証書遺言書を法務局で適正に管理・保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。遺言書の原本と画像データが法務局に保管されるため、紛失や改ざんのおそれがなくなります。保管申請時には遺言書保管官による外形的なチェックが受けられ、有効性が保証されるものではないものの、無効な遺言書となる可能性を低減できます。
また、希望した場合には遺言者が亡くなった際に、指定された人へ「遺言書が法務局に保管されている」と通知してもらえるため、相続人が遺言書を発見しやすくなることにもつながります。さらに自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要になるのもポイントです。
公正証書遺言
「公正証書遺言」とは、公証役場で公証人とともに作成する遺言書です。遺言者は公証人と2名以上の証人の立ち会いのもとで、口頭で遺言内容を伝えることで、遺言書を作成してもらえます。専門家が作成するため、もっとも信用できる方法だといえるでしょう。
公正証書遺言の主なメリットは、
公証役場で遺言書の原本を保管してくれるため、紛失・書き換え・偽造のおそれがない
専門家が作成するため、無効になる可能性が少ない
家庭裁判所による検認が必要ない
自筆できなくても作成できる
その一方で主なデメリットは、
作成手数料がかかる
2人以上の証人を立てる必要がある
証人には遺言書の内容・存在が知られてしまう
などがあります。
秘密証書遺言
「秘密証書遺言」とは、公証人と2人以上の証人に「遺言書の存在のみ」を証明してもらう遺言書です。遺言書にきちんと封をした状態で公証役場に持参するため、他者に内容を知られることはありません。手続きの後は、もち帰って自身で保管をおこないます。
まず秘密証書遺言のメリットを挙げます。
自分以外に遺言書の内容を知られないようにできる
封と押印があるため、他者による書き換えの可能性は低い
その一方で主なデメリットは、以下のとおりです。
専門家による内容のチェックがないため、無効にならないように書きかた・書き損じには注意が必要
作成手数料や検認の手間・時間がかかる
2人以上の証人を立てる必要がある
証人に遺言書の存在が知られてしまう
遺言書の紛失・隠匿のおそれがある
公正証書遺言に比べ、遺言の有効性自体について死後に争いになる可能性がある
そのほかに緊急時にのこす特別方式の遺言
命に危機が迫っている場合など、通常の形で遺言書をのこせない状況では危急時遺言や隔絶地遺言といった「特別方式遺言」によって遺言を作成することもできます。
危急時遺言とは、病気やケガ、船舶や飛行機での遭難など、死亡の危機がある場合に口頭などで作成できる遺言です。病気やケガの場合は「一般危急時遺言」が適用され、1.3人以上の証人が立ち会い、2.遺言の趣旨の口授を受けた承認による筆記、3.筆記内容の遺言者及びほかの証人への読み聞かせ又は閲覧、4.各証人がその筆記の正確なことを承認した後の署名・押印により遺言書が作成可能です。船舶や飛行機の場合は「難船危急時遺言」が適用され、2人以上の証人が必要です。
隔絶地遺言とは、伝染病や乗船中など、外界と隔離された状況下で認められる遺言方式です。遺言書は本人が作成する必要があります。伝染病などの場合は「一般隔絶地遺言」が適用され、警察官1人と証人1人以上の立ち会いのもとで作成します。船舶などに乗船中の場合は「船舶隔絶地遺言」が適用され、船舶関係者1人と2人以上の証人の立ち会いのもとで作成できます。
基本的な遺言書の書きかた
遺言者本人が書く「自筆証書遺言」は、無効にならないためにも注意しなければならないポイントがあります。ここでは基本的な遺言書の書きかたについて解説します。
自筆証書遺言を書く際の、最低限のルールは以下の5つがあります。
ルール1 遺言者に遺言能力があること
基本的に15歳以上になれば、親権者の同意なしに遺言書を作成可能です。しかし、遺言者には有効な遺言を作成できる「遺言能力」が必要となります。認知症や重篤な精神疾患などにより遺言能力・判断力が欠如していたと判断され、自筆証書遺言が無効になった判例もあるため、健康なうちに遺言書を作成しておく必要があるでしょう。また、かなりの高齢の人など認知能力に不安がある方の場合には、精神科医に遺言能力に関する診断書を作成しておいてもらうこともあります。
ルール2 遺言者本人が手書きで作成すること
自筆証書遺言は、遺言者が自筆で作成する必要があります。2019年1月より「財産目録」のみ、パソコンや通帳のコピーなどでも作ることが可能になっています。ただし、財産目録が複数ページに及ぶ場合にはすべてのページ、両面に記載がされている場合には財産目録の両面に署名・押印が必要です。音声データや動画による遺言は、法的な効力を持たないことも覚えておきましょう。
ルール3 作成日を明記すること
遺言書を作成した年月日を明記しましょう。「〇月吉日」など、はっきりとした日付が記載されていないものは無効になります。複数の遺言書があった場合、基本的に日付が新しいものが効力を持ちます。
ルール4 署名・押印をすること
自筆による署名と、押印がない遺言書は無効になります。印鑑は実印がベストですが、いわゆるシャチハタや認印や拇印でも認められるとされています。しかし、後日認印や母音が遺言者本人のものかが争いになったり、長期間の保存で印影が消えてしまったりすると無効になる可能性があるため、実印と朱肉でしっかりと押印することをおすすめします。
ルール5 単独での遺言書にすること
民法第975条において、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」と決められていて、夫婦連名などでの遺言書は無効になります。それぞれ1人ずつ遺言書を作ることはできるので、お互い相談しあいながら作成していくのがよいのではないでしょうか。
自筆証書遺言書の例
自筆証書遺言書を作成する際は、下記のサンプルを参考にしてみてください。
相続トラブルを招かないように覚えておきたい注意点
相続時のトラブルを防ぐためには、以下のポイントを抑えておくことが大切です。
あいまいな表現を避ける
「家は母さんに託す」などの表現は、「妻を指す」のか「実母を指す」のか、「財産を相続させる」なのか「管理を託す」なのか、さまざまな解釈ができるあいまいな表現です。トラブルのもとにならないように、「妻・○○に、□□を相続させる」などとはっきり記すようにしましょう。
遺留分侵害にならないよう配慮する
配偶者や子ども、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)などの相続人には、相続できる財産の最低額の「遺留分」が保障されています。極端に偏りがある財産分与は、ほかの相続人の遺留分を侵害することにつながり、トラブルを引き起こす原因にもなるので注意が必要です。
遺言書のタイプ別にみた保管の仕方
それぞれの遺言書について、遺言書はどのように保管されているのか、いくつかケースを見てみましょう。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言の保管は、基本的に「自宅で保管」「『自筆証書遺言書保管制度』により法務局で保管」「信頼できる弁護士や税理士、知人などに依頼する」の3パターンが考えられます。それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
自宅での保管
自宅の金庫やタンス、机の引き出しなどで保管する方法がこのケースです。
メリットは、容易にいつでも修正できる、鍵のかかる場所に保管すれば偽造や書き換えのリスクを低減できる、普段使っている机の引き出しなどに入れておけば家族に見つけてもらいやすい、などが挙げられます。
一方、デメリットは、金庫に保管する場合は開けかたを家族と共有する必要がある、引き出しなどの保管では改ざんや隠匿の可能性がある、遺言書をだれも見つけられないことも考えられる、などがあります。
法務局での保管
2020年7月から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、自筆証書遺言書を法務局で適正に管理・保管してもらうというのがこのケースです。
このメリットは、紛失や改ざんのおそれはあまりなく、遺言者が亡くなったときには遺言書の存在を通知してもらえることといえます。
デメリットは、手数料が必要であり、簡単には修正できない点が挙げられます。
弁護士・税理士・知人に保管を依頼する
信頼する弁護士や税理士、または知人に保管を依頼するというのがこのケースです。
相続人に「何かあった際は、○○と連絡を取るように」などと伝えておくことで、遺言書が見つからないというリスクを抑えられる点がメリットです。また、紛失や改ざんのおそれが少ない方法となります。
デメリットは、本当に信頼できる相手か見極める必要がある、保管に手数料が必要になる、簡単に修正することはできなくなる、といったことが挙げられます。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言は、原本は公証役場に保管され、遺言者には、遺言書の写しである「正本」と「謄本」が交付されます。この「正本」と「謄本」の保管方法としては、法務局での保管以外は自筆証書遺言とおなじく、「自宅での保管」「信頼できる弁護士や税理士、知人などに依頼する」のほか、信託銀行等に公正証書遺言書を保管してもらう「遺言信託」も利用できます。
信託銀行等での保管
信託銀行や証券会社が遺言書の作成から保管、執行までをサポートしてくれるのが「遺言信託」というサービスです。
遺言書の作成や資産承継全般に関するアドバイスが受けられる、紛失や改ざんのおそれがない、といった点がメリットです。
しかし、費用が高額になるケースもあることや、保管のみを依頼することは不可であるために遺言をのこしたい人にとってハードルとなり得ることが、デメリットになります。
秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言は、公証役場では保管されず、自分で保管方法を考える必要があります。法務局での保管以外は自筆証書遺言と同様の保管方法がありますが、自宅で保管するケースが多く見られます。
肉親に不幸があったときには、まず遺言書の存在を確認
有効な遺言書がある場合には、原則的に遺言書の内容にしたがって相続がおこなわれます。しかし、突然の不幸など、家族が遺言書を作成していたかどうか、だれもわからないというケースもあるでしょう。そんなときは、まず遺言書が存在しているのか、有無を確認する必要があります。
まず自宅内の金庫やタンス・引き出しに保管していないかを確認し、つきあいのあった弁護士や税理士にも連絡しましょう。また、公正証書遺言に関しては「遺言検索システム」という仕組みもあります。必要書類(遺言者の死亡を証明する書類・申込者と遺言者の相続関係を証明する書類・申込者の本人確認書類など)とともに、公証役場に申し込むことで公正証書遺言の有無を検索することができるので、調べてみることをおすすめします。また、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合も考えられるので、あわせて法務局にも確認を申請しましょう。
ただし、もし自宅などで自筆証書遺言を見つけたとしても、慌てて勝手に開封してはいけません。遺言書は、偽造・改ざんなどが起きないよう、公正証書遺言と自筆遺言書保管制度を利用していた場合を除いて、家庭裁判所の「検認」の手続きを受ける必要があります。
「検認」とは、家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人の立ち会いのもと、遺言書を開封・中身を確認すること。民法第1004条では「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」と決められていて、違反した場合には罰則があり5万円以下の過料を科せられます。
こんなときはどうする?遺言書に関するQ&A
ここでは想定される、遺言書に関する疑問にQ&A形式で答えていきます。
新型コロナウイルスなど、感染症に罹り、意識はあっても重篤な症状がある場合はどうやって遺言書を作ればいい?
「一般危急時遺言」または「一般隔絶地遺言」という特別方式遺言を作成することが可能です。「一般危急時遺言」では、3人以上の証人の立ち会いのもと、口頭でも遺言を作成ができ、「一般隔絶地遺言」では、警察官1人と証人1人以上の立ち会いで遺言を作成することができます。
病気や重い障害で手が動かせず、手書きによる遺言書作成ができない場合は?
公正証書遺言であれば、公証人と2人以上の証人の立ち会いで、口頭で遺言を伝えて遺言書を作成してもらうことができます。
自宅で保管していた自筆証書遺言を失くしてしまった場合はどうすればいい?
自筆証書遺言や秘密証書遺言は、新しい日付を記入して作りなおすことが可能です。原則、複数の遺言書が見つかった場合、日付が新しいものが効力を持ちます。
しかし、新しい遺言書に記されていない項目については、古い遺言書が一部有効になってしまうケースも。さらに古い遺言書だけが見つかり、自分の意思が反映されずに相続されてしまうなど、作成しなおした場合にはリスクもあります。
そうしたリスクを避けたい場合は、公正証書遺言を作成するようにしましょう。
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相続トラブルを防ぐためにも、遺言書の作成には、普段から家族と話しあうことも大切です。できれば、現時点での資産の状況や自分の思いを家族に伝え、どのような形で相続していくかを全員で考えていくのが理想的なのではないでしょうか。そこで、自分の現状や思いを整理し、親と子それぞれの悩みが共有できる「楽クラライフノート」をぜひ活用してみてください。
法律に則った遺言書の作成を
「遺言書を作ろう」と思い立ったときは、まずこの記事の5つの基本ルールを思い出してください。とくに「署名と押印」、「日付の明記」は基本中の基本です。苦労して作成した遺言書を無効にしないためにも、法律に則った遺言書作成を心がけましょう。
遺言書作成にかける時間や正しく作る自信がない場合は、弁護士への相談や、公正役場に依頼するのも有効な手段です。
もちろん遺言書があれば相続トラブルが絶対に起こらないわけではありません。しかし、遺言書がない状況での「遺産分割協議」は家族同士が揉める原因にもなりかねません。
親がのこす遺言書は、子どもに自分の思いを伝える最後の機会でもあります。遺言書はぜひ早めに作成しておきましょう。
(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)
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