地方の実家…「空き家のまま放置」に潜む重大リスク
青天のへきれき…名も知らぬ親族の死がもたらした、まさかの「廃墟不動産」相続トラブル
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この記事の内容
近年の日本では、親族間の強い結びつきはすっかり薄れ、核家族や単身世帯が増加しています。そのため、親族の事情を把握していない、そもそも親族の存在すら知らないといったケースも見られます。関係が希薄なだけならとくに問題はないのですが、遠縁の「名前も存在もよく知らない親族」の死がきっかけとなり、面倒な相続問題が降りかかることもあります。
縁もゆかりもない市区町村からの「固定資産税請求」に驚愕
神奈川県に住む60代のAさんのもとに、ある日突然、まったく縁もゆかりもない市区町村から、固定資産税請求が届きました。封を開けてみると、地方税法の規定により、過去5年分の税金の滞納額支払いを、即時するように求める請求書が同封されています。また家屋に倒壊の恐れがある旨の追記もあり、近隣から苦情が来ていること、できれば安全確保するような対応もしてほしいとも書かれていました。
驚いたAさんが手紙を読み進めると、かつての納税義務者の欄には、はるか昔に名前だけ聞き覚えのある叔父の名前が、そして新納税義務者の中には、最近疎遠になっているAさんのいとこの名前が6名、また、見覚えのない名前が6名並んでいました。
Aさんは久々にいとこに連絡を取ってみました。すると、いとこたちも口をそろえて、同じ市区町村から、同じ文面が届いたといいます。
Aさんは記憶を辿り、「かつての納税義務者」の欄に書かれていたのが、Aさんの亡き父から、幼少期に他家に養子にいったと伝えられた叔父の名前だったことを思い出しました。しかし、叔父と思しき人の苗字は、亡き父から伝えられた、その他家とも異なるものです。しかも叔父は、生きていたとしたら100歳近いはずで、最近亡くなったとも思えません。
「幼いころに養子に出された叔父」の存在
Aさんはかつて、自分の父親の相続手続きを依頼した司法書士に相談することにしました。司法書士とともに、請求書を書いた市区町村に問い合わせたところ、叔父は昭和の初め、まだ幼いころに養子へと出されていました。
養子に入った先を仮に「山田家」とします。山田姓になった叔父はその後、成人して結婚。その際に結婚した妻の姓――仮に田中とします――を名乗るため再び姓が変わり、田中姓になりました。よく見ると、Aさんとともに請求書を受け取っているであろう見知らぬ6名は、「山田姓」の方が多いことにも気づきました。
【Aさんの叔父の相続人関係図】
叔父は平成25年ごろ死亡。その後、叔父の妻が平成30年ごろに亡くなったというのが事実のようです。
叔父の家は、千葉県の郊外の住宅地にある一軒家です。かつてはニュータウンとして分譲をされた地域ですが、交通が不便なため過疎化が進み、現在では高齢者率が極めて高い地域となっているエリアです。またややこしいことに、「家屋」は叔父、「土地」は叔父の妻の名義になっているようです。
市区町村に確認してみると、
- 叔父には子どもいなかったこと
- 平成30年に叔父の妻が死亡したが、この妻の兄弟姉妹や甥姪は、現在までに全員が家庭裁判所で相続放棄の手続をしたこと
がわかりました。推測ですが、おそらくは妻の兄弟姉妹たちは、不動産の売却のめどが立たなかったり、手間が面倒だったのかもしれません。
空き家となっている古家には叔父夫婦の残置物がそのまま、しかもかなり多く残っており、いわゆるゴミ屋敷に近い状態です。この撤去だけで相当な費用がかかるでしょう。また、仮に亡き叔父名義の建物の登記名義を変えようとしても、亡き叔父の妻の相続人(=妻の兄弟姉妹甥姪全員)と、亡き叔父の相続人全員(=叔父の兄弟姉妹甥姪全員、つまりAさんたち)の遺産分割協議となります。建物などの不動産価値を考えると、とてもコストに見合わないと判断したのかもしれません。
市区町村としては、できれば相続してもらい、不動産を売却するなどの手続きをしてほしいとのこと。しかしAさんたちにとっては完全に寝耳に水の話です。司法書士とも話し合いましたが、Aさんたちは、叔父の妻の名義である「土地」について相続することができません。叔父は妻より先に亡くなっていますので、妻名義の土地が、Aさんの叔父の相続財産となることはあり得ないからです。土地付きでさえ、他の相続人が匙を投げた不動産です。建物だけで売却できるわけもないため、Aさんたちは相続放棄の手続きを取る以外、選択肢はありませんでした。
期限間際に相続放棄手続きが完了、難は逃れたが…
相続放棄の申述期限については、相続の開始を知ってから「3ヵ月」です。Aさんたちは慌てて相続放棄の準備を進めましたが、Aさんたちの相続関係は複雑であり、戸籍収集も膨大なものとなりました。そのため、Aさんたちが相続放棄の申述を終えられたのは、まさに3ヵ月の期限ギリギリでした。
このように、子がいない独身の高齢者・高齢夫婦、離婚や養子縁組などの関係で、思わぬ相続の連絡が来ることもあります。Aさんはこうした市の連絡を無視したり、放置しなかったおかげで、手間と費用がかかったものの、相続放棄の期限である「3ヵ月以内」に手続きを進められました。少なくとも、資産価値のない住居や、覚えのない負債の始末を求められる事態は避けられたのです。
しかし、Aさんの叔父たちの不動産は「相続人がいない不動産」となりってしまいました。「そんなの、国庫に行くだけでしょう?」と気軽に考える方が多いのですが、相続人がいない不動産は、すぐに国庫には行くことなく、放置されてしまうことも非常に多いのです。
行政が税金の回収をするために家屋を売却しようにも、相続財産管理人を選任するなどの手間と、1年半ほどの時間がかかります。空き家は、空き家のまま草が生い茂るなどすれば、地域が荒廃するきっかけになってしまいます。このように、自分の死後、地域に迷惑をかけないためにも、やはり遺言書の作成などの「終活」が重要になってくるのです。
執筆:近藤崇
司法書士、司法書士法人近藤事務所代表
平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加していることから「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。
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