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相続土地国庫帰属法・制度とは?相続土地の処分に悩む人は必読

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この記事を監修した人
弁護士法人プラム綜合法律事務所 梅澤康二

私は、日本の4大法律事務所の一つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所において6年間の実務経験を積み、その間、数多くの労働問題、訴訟・紛争事件、M&A取引、各種契約書の作成・レビューその他企業法務全般を主担当として処理・解決して参りました。弁護士法人プラム綜合法律事務所は、そのような前事務所で賜ったご指導・ご支援に恥じることのない、最高品質のリーガルサービスを提供することを信念としており、ご相談案件一つ一つについて誠心誠意対応させて頂きますので、安心してご連絡、ご相談ください。

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相続した土地を手放したいと考えている方


この記事のポイント

  • 相続土地国庫帰属法・制度とは、法務大臣の承認が得られれば、土地の所有権を手放せる制度
  • メリットは、通常の土地取引より労力がかからないこと
  • デメリットは、国に審査してもらうための手数料や、納付の際に負担金がかかること

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相続登記について、これまで楽クラライフノート お金と終活の情報サイトでも、多くの記事で重要性を述べてきました。2024年4月1日に施行される不動産登記法では、相続登記をしなければペナルティが課されることを規定しており、相続登記の重要性がますます高まっているといえます。

ただ、不動産を複数もっている人、あるいは、それを相続する立場の人にとっては「できたら相続させたくない/したくない不動産がある」という物件もあるかもしれません。そんな悩みの解決策の一つとなるのが、2023年4月27日に施行される「相続土地国庫帰属法」、そしてこの法律によってスタートする相続土地国庫帰属制度です。土地に限定した制度ではありますが、その詳細を見ていきましょう。

相続土地国庫帰属法・制度とは

「相続土地国庫帰属法」とは、2023年4月27日に施行される法律です。「遠方に住んでいて土地を利用できない」「土地を相続したが維持するためのコストを負担できない」「高齢となり土地の管理ができない」などの理由から、土地を放棄したいと考える権利者の存在は少なくありません。所有地に対するモチベーションの低さが相続登記の未了に繋がり、それが時間を経ることで「所有者不明土地」につながるのです。相続土地国庫帰属法は、こうした問題の解決策として期待されています。内容は、相続などによって土地を取得したとき、法務大臣の承認が得られれば、その土地の所有権を手放し国庫に帰属させることができる(国有地にする)という法律と制度になっています。
(参照:法務省「相続土地国庫帰属制度について」)

相続土地国庫帰属制度のメリットとデメリット

相続土地国庫帰属制度は、国という信頼度が非常に高い相手に必要としない土地を引き取ってもらえる一方、手続きに相応の時間や手間がかかるといわれます。相続土地国庫帰属制度のメリットとデメリットを見ていきましょう。

メリット

メリットの一つ目として、土地を引き取るのは国であるため、通常の土地取引よりは労力がかからない点が挙げられます。もし、いらない土地を売ろうとすると、不動産業者に声をかけ、数多くいる売却先の候補と交渉をする必要も出てきます。

次いで、国有地となれば土地に関するトラブル(取引における詐欺や管理業者に対する地域の方の反感など)のリスクを回避できる可能性が高まります。また、相続人に不明共有者が発生するなどの問題が起こる可能性もほぼなくなるといってよいでしょう。

そして、相続放棄のようにすべての不動産、あるいは財産が引き取られるのではなく、必要のない土地のみ引き取ってもらうことができます。つまり、相続した財産のなかでも必要だと思うものはのこしておけるのです。

デメリット

最大のデメリットとして、国への金銭の支払いが挙げられるでしょう。国に審査してもらうための手数料や、審査が通過した際に納付しなければならない負担金を支払う必要があります。また、弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合には、相談費用も考慮しなければなりません。

さらに、時間や手間がかかる可能性が懸念されています。申請前には、建物の解体や相続登記などを事前に済ませておく必要があります。申請をしてからも、審査項目が多く、書面での審査のほかに現地調査もおこなうため、数か月単位で時間がかかるものという認識をしておくのがよいでしょう。

また条件によっては、下記のように申請を却下されるケースもあります。あるいは不承認となる場合もあるでしょう。承認を得られない場合には、引き続き土地を所有しなければならない状況も想定されます。

【却下事由】

  • 建物がある土地

  • 担保権(抵当権、質権、先取特権等)や使用収益権(賃借権、地上権等)が設定されている土地

  • 私道などの道路、墓地、境内地、水道用地など、他人の利用が予定されている土地

  • 土壌汚染がされている土地

  • 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地(申請者以外にその土地の所有権を主張する者がいる場合や、相続登記がなされていない土地もこれに当たります)


【不承認事由】

  • 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

  • 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地。放置自転車や果樹園、樹木等が該当します

  • 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地。埋蔵文化財等が該当します

  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地。不法占拠者がいる場合、隣地の所有者などとの争訟が必要な土地などが該当します

  • その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地。共益費等の支払を要する土地、森林伐採後に植栽をはじめとした造林がおこなわれていない山林などが該当

(参照:法務省「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」)

相続土地国庫帰属制度の手続き・流れ

前述のように、相続土地国庫帰属制度を利用して不要な土地を国に引き取ってもらうには、手続きが必要であり、最終的に国(法務大臣)の承認が必要となります。ここでは、相続土地国庫帰属制度の流れを解説します。

申請

相続土地国庫帰属制度を利用するためには、相続人からの承認申請が必要となります。この承認申請ができる人は、「相続又は遺贈により所有権の全部又は一部を取得した相続人」(第2条第1項)です。複数人での共同所有である場合、「承認申請は、共有者全員が共同して行う必要がある」(同条第2項前段)とされており、土地の共有持分のみを国庫に帰属することはできないということも覚えておきましょう。

それを踏まえたうえで、希望者は法務局(法文上は法務大臣とされている)に、国庫帰属の申請をおこないます。申請の際には、審査手数料の納付が必要になります。

要件検査・現地調査・承認

申請が受理されると、法務局で審査がおこなわれます。申請資格を満たさない人や、審査手数料を納付していない人の申請は却下されますので、事前準備は入念におこないましょう。また、国が引き取らない土地に当てはまる場合も、この時点で不認可となります。

相続土地国庫帰属制度では、法務局職員による現地調査がおこなわれます。その際に、申請者や関係者に事情聴取や書類提出を求めることがあります。さらに、法務局が必要と判断した場合には、関係行政機関などにも照会や書類提出を求められることも。これを不当に拒絶すると申請が却下されますので、ただちに応じるようにしましょう。

審査が完了すると、結果が申請者に通知されます。承認されなかった場合には、不服申立ての手続が可能です。

承認された場合の負担金納入

審査に通過した場合、合格の結果とともに負担金の額が併せて通知されます。通知を受けた日から30日以内に納付しないと、承認の効力が失効するため注意しましょう。負担金の納入をもって土地は国庫に帰属されます。

承認が取り消される可能性もある

承認の通知を受けた場合でも、下記のようなケースでは、承認の取り消しと、場合によっては損害賠償責任を負うことがあります。

  • 申請内容に虚偽があった場合、不正な手段により承認を受けたことが判明した場合には、承認が取り消しになることがある(第13条第1項)

  • 申請した土地について不承認事由があると知っていながら、引き取らせて、国が損害を被った場合には、国に対する損害賠償が発生(第14条)

相続土地国庫帰属制度に関するQ&A

相続土地国庫帰属制度の要点を、ご理解いただけましたでしょうか。次に、この制度で抱きがちな疑問を、その答えとともに見ていきましょう。

負担金はいくら?

負担金は、国庫帰属後の管理費用の一部として当てられるお金のことです。一部とは管理費10年分を指しており、実際にかかる費用のことではありません。また、最初に国の定めた基準で算定された金額を納付すれば、以降に追加で負担金を支払うことはありません。具体的な金額ですが、法務省からの発表では現状20万円〜となっています。

ただし、例外的に「住宅街の宅地」「優良農地」「山林」などは、面積に応じて金額が決められます。負担金の額が気になる人は弁護士等、専門家に相談するとよいでしょう。

プレハブや廃屋でも建物があれば却下される?

却下されます。「建物の存する土地」は手放すことができないと相続土地国庫帰属法第2条第3項1号に明記されており、プレハブや廃屋も建物に該当する可能性が高く、更地にする必要があります。また、山林の山小屋や老朽化した廃屋も建物と評価される可能性が高いため事前に取り壊しをしておくようにしましょう。

農地や山林は引き取ってもらえるか?

原則的には、農地や山林も制度で国に引き取ってもらえる対象になっています。ただし、山林の場合、要件を満たすにはハードルが存在することも事実。山林について相続登記が未了であれば権利関係が不明瞭であることが多いでしょうし、また、隣地との境界が明確でないこともしばしばあります。このような土地は「隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地」(第5条第1項4号)と判断されて不承認となる可能性が高いです。

また、土砂崩れ、地割れなど重大な災害による被害発生防止のために、大きな対策を講じる必要がある土地や、周辺地域の土地所有者に鳥獣や病害虫の被害を与える可能性がある土地などは、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」(第5条第一項5号)に当たるため、手放すことが難しいとされています。

却下・承認されなかった場合はあきらめるしかないのか?

行政不服審査・行政事件訴訟で不服申立てが可能です。

法人は申請できないのか?

法人は自然人の相続人となることがなく法令の定める相続等による土地の取得ができないため、基本的には申請資格が認められません。ただし、共有地の場合はこの限りではなく、売買等で共有地を取得した法人が、相続等により共有持分を取得した他共有者と共同して申請する場合は申請資格が認められます。

土地の相続で悩む人は検討しよう

土地の相続で悩みをもつのは、必ずしも富裕層とは限りません。むしろ、地方の過疎化、都市部への人口集中によって、不要な土地、所有者不明の土地というのは日本国民のだれもが抱える可能性がある問題となっています。「相続土地国庫帰属法/制度」は、相応に厳しい条件が課せられているものの、土地相続に悩む人にとっては間違いなく救済策であるといえるでしょう。

この記事のほか、弁護士などの専門家に相談し、処分に悩む土地に対してベストな結論が出せるとよいですね。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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