コラム

親の借金も相続するのが原則!相続放棄の方法と起こり得るトラブルを解説

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この記事を監修した人
弁護士法人プラム綜合法律事務所 梅澤康二

私は、日本の4大法律事務所の一つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所において6年間の実務経験を積み、その間、数多くの労働問題、訴訟・紛争事件、M&A取引、各種契約書の作成・レビューその他企業法務全般を主担当として処理・解決して参りました。弁護士法人プラム綜合法律事務所は、そのような前事務所で賜ったご指導・ご支援に恥じることのない、最高品質のリーガルサービスを提供することを信念としており、ご相談案件一つ一つについて誠心誠意対応させて頂きますので、安心してご連絡、ご相談ください。

http://www.plum-law.com/

この記事をおすすめする人

親に借金があるため、相続放棄したいと思っている方


この記事のポイント

  • 相続放棄以外にも、限定承認相続で負債を軽減できる
  • 相続放棄は撤回ができない点に注意しなければならない
  • 相続放棄をする場合、財産調査や家庭裁判所への申述が必要となる


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相続というと「財産を継承できる」とプラスの意味に捉える人が多いかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。たとえば、自分の親が会社経営だったり個人事業主であったりする場合、事業のために個人名義でお金を借りているという可能性があります。その場合、借りている当人が亡くなり相続が発生すると、借金は相続人が引き継ぐため、相続人である子どもは親の借金を返済しなくてはならないのです。銀行などの金融機関からお金を借りている場合に限らず、親族、友人など個人からお金を借りている場合も同様です。

そこで、明らかに借金などのマイナスの財産が多い場合、相続したくないと考えるのは自然なことです。そのときに検討すべきが「相続放棄」。今回は放棄することにリスクや問題はないのか、そして相続放棄の手続きについて解説します。

そもそもなぜ借金も相続しなければならないのか?

先に触れたとおり、相続は土地、建物、預貯金、株、投資信託、自動車、家財道具などプラスの財産を引き継ぐことができる一方で、借金、ローン、未払金、保証債務などのマイナスの財産もおなじく引き受けなければなりません。これは民法第896条に「相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とあるように、プラスの財産を行使する権利とマイナス面を負担する義務はセットで継承するのがルールとなっているからです。

親子関係が疎遠であったり、たとえ絶縁状態であっても、日本の法律では実親と実子の関係を切ることはできません。親との関係性が薄かったからという理由で、相続した借金の減免はされません。相続したくないという意思があるならば、相続放棄などの選択をする必要があるのです。

押さえておきたい相続の3つの方法

相続には具体的に「単純承認」「相続放棄」「限定承認」という3つの方法があります。以下をご覧いただき、それぞれがどんなものであるか覚えてくださいね。

単純承認

相続の種類のなかでもっともシンプルな方法が「単純承認」です。プラスの財産とマイナスの財産すべてを相続する場合がこれにあたります。相続人がひとりの場合の単純承認では、財産名義の書き換えをおこない、相続人が複数人の場合だと遺産分割協議をして相続をおこないます。ただし、遺言書がある場合は相続人が複数でも、原則的に遺言書の内容に沿った相続となります。

相続放棄

「相続放棄」は、相続をしない、つまり放棄することをいいます。つまり、プラスの財産もマイナスの財産も相続することはありません。相続放棄を検討している場合は、被相続人の死亡後(厳密には、自身が相続人になったことを知ってから)3か月以内に裁判所に申述をして、受理してもらう必要があります。

限定承認

相続全体がプラスになるかマイナスになるかわからない場合には、「限定承認」という方法があり得ます。限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続するもの。被相続人に負債があった場合、負債を被相続人の財産のなかから弁済します。相続人の財産は弁済の対象にならないため、自身の財産を守ることができます。

限定承認の手続きは、被相続人の死亡後、相続開始を知ったときから3か月以内に、裁判所へ申述しなければなりません。相続開始相続人が複数人いる場合には、相続人全員が同時に手続きをおこなう必要があります。また、財産や借金の調査などに手間と時間を要する手続きであることを予め理解しておきましょう。

親の借金で相続放棄したい人が注意すべきこと

相続放棄することは、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産も手放すことでもあります。よって、被相続人名義の家、土地、車などの財産も放棄しなければなりません。相続財産を手元においておきたい場合は、相続放棄は選択肢から外れるものと考えましょう。

思い入れのある自宅なども放棄しなければならない

自宅が被相続人のものであり、相続放棄する場合は、当然、自宅も手放すことになります。被相続人、そして家族全員の思い出がつまった家ですが、相続放棄となれば人手に渡ってしまう可能性があることを理解しておく必要があります。

相続放棄は撤回ができない

相続放棄は一度申述してしまうと原則として撤回はできません。後になってから高額な資産が見つかったとしてもやり直しはできないのです。また相続放棄をした場合に代襲相続(被相続人が死亡したときに本来相続人となるはずだった人がすでに亡くなっていた場合などに、その子が代わって相続する制度)も発生しないので相続放棄者の子が相続放棄者に代わって相続するということもありません。手続きをおこなうまえに「本当に相続を放棄してしまっていいのか」を慎重に判断する必要があります。

相続放棄前に被相続人の財産を使ってしまうと、単純承認したとみなされることがある

被相続人の預貯金を自分のために使うなど相続人が相続財産を使ったり、処分したり、壊したりすると、単純承認とみなされることがあります。この場合には相続放棄が認められなくなってしまいます。民法第921条第1号には「相続財産の全部または一部の処分は、民法に定められた単純承認事由に当てはまる」と明記されているからです。

プラスの財産を使うことだけでなく、マイナスの財産を整理することにも注意が必要です。相続人になると、金融機関や保証協会などから返済通知が届きます。これに慌てて返済すると、返済した事実が単純承認とみなされ、そのまま借金の返済義務を負うケースがあります。まずは落ち着いて、借金を相続すべきかきちんと検討しましょう。

相続放棄をすると、次の相続順位の人に借金を負わせる可能性がある

法定相続人の範囲についてですが、どのような場合であっても法定相続人となるのが「配偶者」です(事実婚のパートナーや内縁の妻、夫などは法定相続人ではありません)。配偶者以下は次のような相続順位が定められています。第一順位が「子ども(直系卑属)」。第二順位が「親(直系尊属)」。第三順位が「兄弟姉妹」です。同順位者の中で相続放棄があった場合、他の相続人に相続権が移ります。また、先順位者が全員相続放棄した場合、後順位者に相続権が移ります。

たとえば、法定相続人が子ども3人であった場合、そのうちひとりが相続放棄をした場合には、放棄していない子ども2人の相続分は均等に増大します。また、子どもが1人しかおらず、その人が相続放棄をした場合、第二順位の被相続人の親に相続権が回ることになります。

相続放棄をする場合は、大抵、マイナスの財産が多いケースです。そのため、相続放棄をするとほかの法定相続人に借金を負わせることになります。自身が相続放棄をすることが親族間のトラブルにもなりかねないため、自分以外の相続人に対して相続放棄をする旨をきちんと説明したほうがよいでしょう。

相続放棄で家を手放しても管理義務を負う必要がある

相続を放棄したとしても、管理義務を免れるとは限りません。相続放棄をしたら不動産や株式などの資産を相続できなくなるため、管理の義務もなくなると考える人は多くいます。しかし民法940条に次のような条文があります。

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

つまり、相続放棄をした場合でも、新たに相続人となる者による管理が可能となるまで相続財産について一定の管理責任が生じるということです。

なお、2023年4月に施行された改正民法は940条で「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という一文が追加されることになりました。これが意味するところは、たとえば子が親の相続を放棄するケースで、上記管理責任を負うのはたとえば子が親の生前から土地を管理していたり、死後に土地の管理を開始したような場合に限られるということです。この改正により相続放棄者が不測の管理責任を強いられる可能性はかなり低くなると思われます。

また、相続財産を管理する者が存在しない場合、利害関係者は家庭裁判所に「相続財産管理人の選任手続き」を申し出ることが可能です。相続財産管理人とは、財産を管理して債権者への支払いや受遺者への遺贈をおこない、相続財産の清算をおこなう人のこと。手続きには、必要書類の手配や予納金というお金を納める必要がありますので、同制度を利用するかは要検討でしょう。もし自己判断で相続放棄をするべきか否かの見極めが難しい場合は弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

相続放棄の流れ

ここでは、相続放棄を自身でおこなうための6つのステップを紹介します。

STEP1 相続財産を調査する

相続放棄をするためには、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」(民法第915条第1項本文)から3か月以内に手続きをおこなわなければなりません。この期間は「熟慮期間」と呼ばれています。「相続の開始があったことを知ったとき」とは、「被相続人の死亡を知ったとき」と考えてよいでしょう。この期間にまずおこなうべきは「相続財産を調査すること」です。これは被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を含めたすべての財産の有無を調べ、適正に評価、査定することを言います。きちんと評価・査定をおこなわないと、単純承認をするか、相続放棄をするか、限定承認かといった、適切な相続の手続きを選ぶことができません。調査すべき項目は以下のようなものが挙げられます。

  • 金融機関への預貯金

  • 株式やネット証券などの有価証券、仮想通貨、保険積立金、ゴルフ会員権などの有無

  • 所持している不動産

  • 貴金属、自動車、美術品など換金価値のあるもの

  • 信用情報機関への照会

  • 個人間の貸し借りや保証債務


このように調査対象は多岐にわたるため、相続財産調査は弁護士や司法書士、税理士などの専門家に依頼する選択肢も検討するのがよいでしょう。

STEP2 費用を確認する

相続放棄をする場合には、相続放棄申述人ひとりにつき800円の収入印紙が必要となります。また、連絡用の郵便切手を用意して同封する必要があるので忘れずに手配しましょう。郵便切手の額は裁判所によって異なります。そのため管轄の家庭裁判所にあらかじめ、問いあわせておくとよいでしょう。

STEP3 必要書類の手配

相続放棄の手続きをするにあたり必要な書類は、以下のとおりです。

相続のケース必要書類
どのケースでも必要になる書類
  • 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)

  • 申述する人の戸籍謄本

被相続人の配偶者が相続放棄する場合
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
第一相続順位の人が相続放棄する場合
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本

  • 代襲相続人が相続放棄する場合は被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本

第二相続順位の人が相続放棄する場合
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

  • 被相続人の子で死亡している人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

  • 被相続人の直系尊属で死亡している人の死亡の記載がある戸籍謄本

第三相続順位の人が相続放棄する場合
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

  • 被相続人の子で死亡している人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本

  • 代襲相続人が相続放棄する場合は被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本

STEP4 家庭裁判所に申述

必要書類が準備できたら、家庭裁判所に申述します。相続放棄の申述先は、被相続人が亡くなった際に住民票を置いていた居住地を管轄する家庭裁判所になります。

先に書いたとおり、家庭裁判所への申述までを熟慮期間の3か月のあいだにおこなわなければなりません。資料の収集や手続きの準備をしていると、あっという間に期間は過ぎてしまいます。申述期間の伸長をおこなわないと単純承認となってしまうため、相続放棄の申述と期間の伸長手続きの両方を意識して手続きを進めるようにしましょう。

STEP5 家庭裁判所から届く照会書に返送する

家庭裁判所に申述すると、後日照会書が届きます。照会書の内容は「その申述が真意に基づいたものであるか」「単純承認がないか」などの確認になります。単純承認についての判断は、被相続人の財産を引き出して使っていないか、財産を処分していないかなどが問われているものと考えてください。照会書に必要事項の記入、回答をして返送をします。

STEP6 相続放棄申述受理書が届く

照会書を返送し、相続放棄の申述が受理されれば、家庭裁判所から「相続申述受理書」が届きます。これで、正式に相続放棄が認められたこととなり、被相続人の債務について責任を負う必要がなくなります。

自身で相続放棄をするためのステップをまとめましたが、相続財産の調査や必要書類の手配や照会書に対する回答など、法律にくわしくない人にはすこしハードルが高いようにも感じられます。書類に不備があると裁判所に呼び出されるケースがあったり、もしも却下されると再申請での受理が難しいということもあるため、できれば弁護士などの専門家に相談しながら進めるのが賢明といえるでしょう。

若い人もいまから親の相続を考えよう

親のもっている資産について把握していない人は多いことでしょう。それとおなじく、親の立場を想像すると、子どもに「お金をいくら借りている」と伝えるのは容易でないことも理解できます。ただ、そのまま何も準備をせずに過ごしていると、いざ相続の場面になったときに慌てることになりかねません。

もちろん、突然「借金はない?」というのは切り出すのは難しいことだと思いますし、親も心配かけまいと本当のところを教えてくれるとは限りません。だからこそ、「家族みんなが幸せになるためにも、いまのうちから終活について考えてみたい」とすこしずつ相続について考える機会をもつことが大切です。思わぬ借金に悩まされないようにするコツは、親が元気なうちからこうした話題を交わしやすい環境をつくっておくことなのです。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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