コラム

看護に尽くしてくれた同居長女に、実家不動産を渡したい

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この記事の内容

高齢化が進展する日本では、高齢者の介護負担も問題となっています。そのようななか、看護に尽くしてくれた子にだけ、特別手厚く遺産を多く残したいと考える親御さんは少なくありません。そんな感謝を実現するには、どういった方法があるのでしょうか。


今回は、手厚い看護をしてくれる長女に、自宅不動産を残したいと考えた、高齢女性の事例をもとに考察します。

看護に尽くしてくれたのは「同居の長女」


数年前に夫を亡くしたある女性は、相当程度の介護が必要な状態です。しかし、長年実家に同居し看護してくれる長女のおかげで、何とか生活ができています。


この女性の法定相続人は、長女以外に次女と三女がいますが、この2人は離れた場所で暮らしています。そのため、自分が亡くなった場合は、長年にわたり介護をしてくれた長女に、実家の不動産(土地・建物)を単独で相続させたいと考えています。また、財産は自宅不動産以外、ほとんどない状態です。どのような方法を採ればよいでしょうか。

遺言書を残さなければ、きょうだい間で法廷闘争の可能性あり


「長女の看護」について、次女・三女が納得すればいいのだが…

まず、遺言(民法902条)がない場合、原則として、法定相続分(民法900条)どおりに相続されます。本記事の事例では、長女、次女及び三女で、3分の1ずつを分け合うことになります。

 

母親が亡くなったあと、長女、次女及び三女の間で、長女が看護していた事実を適切に評価して実家を全て長女に相続させる旨の遺産分割協議が調えばよいのですが、調わない場合には、長女、次女及び三女が、実家の不動産を共有(民法249条以下)することになります。

 

共有となった場合、各共有者は、原則として、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法256条1項)。共有物を分割する方法としては、①共有物を持分の割合に応じて物理的に分割して各共有者の単独所有とする方法(現物分割)、②共有物を売却して、その代金を各共有者の持分の割合に応じて分配する方法(代金分割)、③共有物を特定の共有者に帰属させ、この者から他の者に対して持分の価格を賠償させる方法(価格賠償)がありますが、どの方法によったとしても、長女に対して大きな負担となります。

 

法的に「看護が評価される基準」は、なかなか厳しい

また、長女が「被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」と認められる場合には、当該寄与分が考慮された相続分が認められる場合があります(民法904条の2)。


一方で、「被相続人が自らの費用で看護人を雇わなければならなかったはずのところを、相続人が療養看護したために、被相続人が看護人の費用の支出を免れたことで、相続財産が維持又は増加した場合に限られる」(家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)・331頁)、つまり、「看護してくれたおかげで、資産が減らずにすんだ・資産が増えた」ことが評価のポイントとなります。


また、「明確な指標はないが、一般的には介護保険における要介護度2(又は3)以上の状態にあることが必要であると思われる。」(上記347頁)、つまり、被相続人が一定以上の要介護レベルであることも前提となっています。


さらに、裁量割合や、同居の相続人の居住利益なども加味されることがあり、結果として十分な額が考慮されない場合もあり得ます。

 

万一もめたら「長い紛争」になる場合も

そして、長女、次女及び三女との間で争いになった場合には、家庭裁判所に対して、遺産分割の調停や審判の手続にて判断せざるを得なくなるため、数年にも及ぶ長い紛争になってしまう可能性もあります。

公正証書遺言の作成が「必須事項」といえるワケ


遺言書に「実家の不動産をすべて長女に」と明記する

そのため、長女に実家の不動産をすべて相続させたい場合には、まず、「実家の不動産をすべて長女に相続させる」旨の遺言書を作成しておくべきです。


遺言書の作成方法としては、自筆による方法(自筆証書)または公正証書(公証人が作成する公文書)による方法などが考えられますが、自筆証書遺言は、死後に遺言書が見つからなかったり、本当に本人が書いたものかどうかが争われたり、必要な要件を満たさずに無効となる場合(民法968条1項など)などがありますので、できる限り公正証書の方法で残しておくが望ましいと考えます。

 

「遺留分侵害額の請求」の可能性も念頭に

ただし、このような遺言書を残した場合であっても、次女及び三女は、遺留分侵害額の請求(民法1046条)ができることに留意が必要です(「遺留分侵害額の請求調停」参照)。つまり、次女・三女は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。

 

遺留分の割合は、「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。」(民法1042条)とし、その割合としては、「直系尊属のみが相続人である場合 3分の1」(1号)、「前号に掲げる場合以外の場合 2分の1」(2号)と定めています。


本記事の事例では、次女に6分の1(法定相続分3分の1×2分の1)、三女に6分の1(同様)の遺留分の割合が認められます。

 

また、この権利は、相続開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間、または相続開始の時から10年を経過したときは行使することができないと定められています(民法1048条)。

 

この遺留分侵害額請求の対策として、「遺留分の放棄」という方法があります。


民法において、「相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる」(民法1049条1項)とされているため、遺留分の放棄は、遺留分を有する各相続人が、相続開始前(被相続人の生存中)に、被相続人の住所地の家庭裁判所に対して申し立てる必要があります。


なお、許可を受けるには、遺留分権利者の自由意思によるものであること、放棄について合理的な理由があることが必要であるとされています。

長女に自宅不動産を残したい母がとるべき行動は2つ


以上のことから、母親が取るべき最も望ましい対応としては、


①公証役場で公正証書遺言を残す

②次女及び三女に対して遺留分の放棄をさせる


という2点になります。


母親自らが、公正証書遺言の作成を依頼するのは手間がかかりますし、また、次女・三女に対し、家庭裁判所に遺留分侵害額請求の放棄の許可を得るよう促すことは、大変な労力を要することになるでしょう。

 

しかし、だからといって何も対応をしないでいては、姉妹間で激しい争いになることも考えられ、また遺産分割の結果によっては、長女が実家に住めない事態が生じる可能性もあります。したがって、生前にしっかりと対策を取っておくことが何より重要なのです。



執筆:山口明

弁護士、日本橋中央法律事務所

東京弁護士会所属。2016年、日本橋中央法律事務所を開設。特に金融に関わる法務、不動産に関わる法務及び信託に関わる法務を得意としている。


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