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暦年贈与の基礎知識|年間110万円を非課税で子や孫に渡すには?

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新井智美/トータルマネーコンサルタント

公式サイト:https://marron-financial.com/

 

(保有資格)

・ファイナンシャルプランナー(CFP®)

・1級ファイナンシャル・プランニング技能士

・DC(確定拠出年金)プランナー

・住宅ローンアドバイザー

・証券外務員

 

マネーコンサルタントとしての個人向け相談や、資産運用などにまつわるセミナー講師のほか、大手金融メディアへの執筆および監修に携わっている。現在年間300本以上の執筆・監修をこなしており、これまでの執筆・監修実績 は2,000本を超える。

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相続税を抑えて家族に相続したい方


この記事のポイント

  • 暦年贈与は控除枠を利用して、年110万円まで税なしで相続すること
  • 税務署で認められないケースもあるので要確認
  • 将来的に暦年贈与が廃止になる可能性がある


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相続を考えるとき、すこしでも大きな金額・価値で次の世代の家族に引き継いでもらいたい、と思う人も多いでしょう。相続にかかるコストは、弁護士・司法書士・信託銀行などといった専門家への依頼費用や相続登記をはじめとした役所関係の経費など多くありますが、真っ先にイメージするのは相続税などの税金ではないでしょうか。

相続税が具体的にいくらになるかは、課税される財産の額や相続人の数などによって変わってくるため一概にはいえません。ただ、国税庁が頒布している「相続税のあらまし」によると、1億円の財産を配偶者が8000万円、2人の子どもが1000万円ずつ相続したとき、子どもはそれぞれ63万円ずつ納税するというモデルケースが示されています。いくら相続する財産の金額が大きいとはいえ、支払う相続税額もかなりの額になると感じるでしょう。

相続税を軽減する方法として、よく挙がるのが「暦年贈与」です。亡くなってからのこされた家族が財産を引き継ぐのではなく、相続でいう被相続人が生きているうちにすこしずつ家族へ財産を贈与していくものです。本記事では、暦年贈与について解説します。

暦年贈与とは

現金やそのほかの財産をだれかに贈与する、平たいいい方をすれば「あげる」と、贈与税がかかります。ただし、1月1日〜12月31日の1年間に贈与を受けた額が110万円以下であると贈与税の基礎控除の範囲内となり、税金がかかりません。この基礎控除枠を利用して、毎年、110万円以下の金額を家族へ贈与していくことが「暦年贈与」と呼ばれます。

つまり、将来、自分が亡くなったときに家族へ財産を相続してもらうと相続税がかかる場合がありますが、生きているうちに贈与を続けていくことで税負担を少なくする、もしくはなくせるのが、暦年贈与がおこなわれる意味となります。

ただし、毎年110万円以内という枠さえ守っていれば、必ず税金がかからないわけではありません。以下で、どうすれば税負担を軽減できるのか、あるいは税金がかかってしまうのかを、くわしく解説していきます。

暦年贈与のメリットとデメリット

自分は暦年贈与をしたつもりがそうみなされず税金がかかってしまうことがあります。こうした暦年贈与のデメリット、そしてメリットの双方を取り上げます。

メリット

暦年贈与の最大のメリットは、なんといっても将来発生する可能性がある相続税を軽減、場合によってはゼロにすることができ、また贈与税も発生しない点でしょう。税金が発生せず約110万円というまとまった金額を、ほぼそのまま家族へ引き継げます。

また、毎年、暦年贈与を続けていけば必然的に贈与する側の財産は徐々に減っていきます。そうすると贈与した人が亡くなったときに、その人の財産が相続税の基礎控除の範囲内に収まり相続税を支払う必要がなくなったり、基礎控除の範囲内に収まらない場合であっても暦年贈与を行わなかった場合と比べ支払う相続税を軽減できたりします。

デメリット

暦年贈与のデメリットは、税務署が、おこなった贈与を暦年贈与として認めないケースがあることです。次の「暦年贈与の注意点」でくわしく述べますが、たとえば贈与したとの記録をのこさせない現金でのやり取りなどがその代表例です。こうした税務署が暦年贈与と認めないケースがある、また認められるためには細心の注意が必要となる点は、デメリットといえるでしょう。

一方、贈与した人が亡くなる以前3年間の贈与は相続税の課税対象になります。その3年間に贈与した額と被相続人(なおかつ贈与した人)の死後に相続した額の合計が大きければ、相続税の負担が大きくなる場合があります。

暦年贈与の注意点

では、贈与が暦年贈与として認められるためには何が必要か、ここで解説します。

贈与契約書をのこす

暦年贈与と認められるためだけでなく、本来、贈与には贈与契約書が必要です。そのため、暦年贈与をおこなうにあたって、毎年、贈与する人と贈与される人とのあいだで贈与契約を締結し、契約書をのこしておくことが必要になります。

なぜこのプロセスが必要かというと、法律的に贈与とは、贈与する人、される人、お互いの合意、つまり契約によって成り立つと考えられているからです。たとえば、あなたがお孫さんにお金をあげる、と思っても、本来の法律での考え方ではさらにお孫さんの「もらう」という合意が必要になるのです。よって、暦年贈与をする以上は毎年、贈与契約書をのこしておきましょう。

定期贈与とみなされないよう注意する

前述の贈与契約書について、「それだったら毎年110万円を10年間、合計1100万円を贈与するという契約を一度結べば済むのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、これは定期贈与となり、暦年贈与ではないとみなされるのが一般的です。定期贈与とは、あらかじめの取り決めの下で計画的におこなわれる贈与のことです。

では、「4月1日に110万円を贈与するという契約書を毎年交わせばよいのでは?」とも思うかもしれませんが、それも暦年贈与とはみなされない可能性が極めて高くなります。暦年贈与とは定期贈与と異なり、「たまたま、何らかの理由があって贈与がおこなわれた」とみなされる贈与でなければならないからです。よって、贈与する時期も、金額も毎年おなじであると暦年贈与とはみなされにくくなります。ある年は夏に80万円、別の年には冬に100万円などというように毎年異なる金額の贈与で、できれば「教育資金のための贈与」などというように何らかの贈与の理由があったほうがよいといえます。

もし定期贈与とみなされると、110万円以下の贈与であっても贈与税がかかります。

お金は振り込みで、贈与先の口座は本人が管理する

贈与契約書と同様に暦年贈与の証拠をのこす目的があり、お金を贈与するときには原則的に現金ではなく振り込みでおこなうべき点はすでに述べたとおりです。

ただ、たとえばあなたがお孫さんに暦年贈与するとき、振込先の口座名義がお孫さんであったとしても実質的に管理しているのがあなた自身や孫の親(あなたから見てお子さん)であるとすれば、お孫さんへの贈与とはみなされず、名義預金とみなされる可能性が高くなります。贈与する財産は贈与先の本人が管理することが原則です。「孫に贈与していることがわかると使い込んでしまうかもしれないから、名義だけ孫にして自分の手元に通帳を置こう」と考えるかもしれませんが、それでは贈与にならないのです。

不動産の暦年贈与には注意が必要

不動産も暦年贈与することが可能です。しかし、以下の理由からこれをおこなうことは現実的に難しいともいえます。

不動産の暦年贈与が難しい第一の理由は、評価額が贈与税の基礎控除額である110万円を超えている不動産が多く存在するところにあります。そのため、110万円以下の評価額分に分割して贈与することが必要です。評価額が3000万円の不動産であれば、評価額すべてを贈与する場合、単純計算で少なくとも28年にわたる贈与が必要になってしまいます。

次に、不動産を分割して贈与するごとに所有権移転の登記も必要です。これは結構な手間となり、またお金もかかります。とくに、登記時に支払う登録免許税は、相続による場合では評価額の0.4%であるのに対して、贈与による場合では2%となっています。

また、前述の贈与契約書は不動産の贈与でも当然、必要とされます。分割して贈与するのであれば、その分割ごとに贈与契約書を作成し締結しなければなりません。

以上をクリアできるのであれば、不動産の暦年贈与も選択肢の一つとなるかもしれません。

暦年贈与での節税をするならば相続時精算課税制度は利用できない

相続時精算課税制度とは、生前贈与における税の優遇制度の一つです。この制度を利用すると18歳以上の子・孫(※)への贈与は2500万円まで相続税がかからず、また贈与した人の死亡時に贈与分も含めて相続税として一括で納税するものです。

しかし、相続時精算課税制度と暦年贈与は選択制になっており、いったん相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与に戻すことはできません。相続時精算課税制度は利用する際に税務署へ届出書を提出する必要があります。

※:法改正により2022年4月1日より18歳以上に変更。それ以前は20歳以上

死亡前3年間にした贈与は相続したとの扱いになる

こちらは、暦年贈与のデメリットとして前述したとおりです。終末期にあるとの診断を受けた人が贈与をするケースなどでは、注意したほうがよいでしょう。

暦年贈与の流れ

税務署から暦年贈与であると認められるような贈与とするためには、贈与する人が贈与される人ときちんと意思疎通を図り、契約書を締結し、そして実際の贈与へと移るといった流れが必要です。注意点と重複する部分もありますが、きちんとしたプロセスを踏むためにもぜひご覧ください。

贈与される人に暦年贈与をすることを説明する

贈与はする人、される人の合意があってはじめて成立すると述べました。そのために贈与契約書をつくりますが、書面だけでなく当人同士できちんと話をしておくことも大切です。節税のために暦年贈与としたい、暦年贈与とするために毎年おなじ金額は渡せない、といった点を丁寧に説明しましょう。また、暦年贈与は「たまたま、不定期におこなわれた」と認められるためにも贈与の理由があるに越したことはありません。たとえば、4歳になるお孫さんには「幼稚園・保育園に入る準備費用として」、その後に5歳となるときの贈与では「七五三や習いごとの費用として」などといった理由を挙げられるとよいでしょう。

贈与契約書の作成・締結

実際に贈与をおこなう前に、必ず贈与契約書を作成し、贈与する人、される人のあいだで締結しましょう。できれば税理士など専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

贈与契約書には次の5点を明記することが必須です。

  • 贈与する人の名前、住所

  • 贈与される人の名前、住所

  • 契約を締結した日付と贈与をおこなう日付

  • 贈与する財産の種類と金額・価値

  • 贈与の方法(◯◯銀行△△支店の口座に振り込む、など)


また、契約書には贈与する財産に応じて印紙の貼付が必要です。金銭の贈与についての契約書であれば、印紙の貼付は必要ありませんが、不動産を贈与する場合は貼付が必要です。また、不動産を無償で贈与する場合の印紙税は一律200円ですが、「贈与と引き換えにローンの返済を負担する」というような負担付贈与の場合は、取引金額に応じて以下の印紙税を、収入印紙を貼付することによって払わなければなりません。

贈与する金額
印紙税の金額
10万円以下
200円
10万円超50万円以下
400円
50万円超100万円以下
1000円
100万円超500万円以下(暦年贈与の場合は110万円以下)
2000円

契約書は2通作成し、贈与する人、される人の双方が保管します。

贈与をおこなう

贈与契約書に明記された贈与をおこなう日に、実際の贈与をおこないます。繰り返しになりますが、銀行振込をはじめとした記録ののこる方法で贈与をおこないましょう。

110万円超を贈与し、申告する人もいる

暦年贈与の形をとっていると記録にのこして主張するため、あえて110万円を超える金額を贈与し、贈与税を納付する人もいます。111万円を贈与したとすると、贈与された側が納付する贈与税は1000円とそれほど高額ではないため、このコストを支払うことできちんとした暦年贈与をおこなっていると税務署にアピールすることにもつながります。

ただ税理士のなかには、この方法を避けるべき、とする人もいます。かえって税務署から関心をもたれてしまうためです。税務署にとって、毎年、111万円、120万円といった贈与を繰り返している人は「意識的に相続税対策をおこなっている人」と考えられてしまい、そうであれば申告漏れや正しくない贈与をおこなっているかもしれない、との印象をもたれてしまうと考える専門家がいるのです。

もし、こうした方法を採るとしても、前述の注意点をもれなく頭に入れ、正しく暦年贈与をおこなうことが大切です。

将来的に暦年贈与が廃止される可能性も

現在、国政の場で議論されている税制の改正で、暦年贈与の見直しが検討されています。もしかすると将来、暦年贈与の仕組みがなくなってしまう可能性があるということです。

この議論は、「令和4年度税制改正の大綱」という、税制を変える方針や考え方の文書に記されました。ただ、実際に暦年贈与の仕組みがなくなるか否かは、いまのところ不透明な状況です。よって、暦年贈与をおこなっている人、これからおこないたい人は動向に注視が必要となるでしょう。

課税とならないよう、最新の注意を

非課税とすることを目的として暦年贈与をおこなっていくには、気をつけなければならないポイントが多くあります。こうした注意点を見過ごしてしまい、もし贈与に課税がされるとなってしまうと、そのときは大抵、自分が亡くなった後の相続時に税務調査が入った場合となりがちです。せっかく子や孫が経済的に困らないような方法をとっていたのに、自分がこの世からいなくなってから課税をされてしまうとなると、悔やんでも悔やみきれません。

よって、暦年贈与をおこなうときは税理士など専門家に相談することも有効な手段です。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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