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【基本知識編(基本のき)】もしも判断力が低下したら

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将来、判断力が著しく低下し、自分自身で「お金の管理」や「契約行為」ができなくなったらどうすればいいのでしょう。
「入院費用をおろさなければならないのに、自分でおろせない……」
「自宅を売却して、施設に入るつもりだったのに……」という状況に至る人もいます。  

「子どもがなんとかしてくれるはず」と考えるかもしれませんが、事前の準備をしていないと、家族でもサポートするのは容易ではありません。

こちらの記事では、そんな“もしも”に備える方法について解説します。

高齢者の4人に1人が認知症!?

“認知症”という病名は知っていても、どこか他人ごとと思っている人は多いのではないでしょうか。
しかし、有病率はとても高く、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると推計されています。認知症に移行する可能性のある軽度認知障害(MCI)の人を含めると、65歳以上の4人に1人が有病とのこと。認知症やMCIはとても身近な病なのです。

いまは元気でも、「いつか、自分自身も発症する可能性はある」と考えておく方がいいでしょう。

 認知症になるとさまざまな症状が現れます。新しいことを記憶できずに、さきほど聞いたことさえ思い出せなくなる「記憶障害」。時間や季節の感覚が薄れる「見当識障害」。また、「理解・判断力の障害」が起こることも多く、考えるスピードが遅くなったり、2つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなったりします。
ものごとの段取りが苦手になることにより日常生活全般に支障が出る「実行機能障害」が現れることもあります。

一方、MCIは適切な治療・予防をすることで回復したり、症状の進行を遅くすることも可能だと言われています。早期発見に心がけたいですね。

軽度認知障害(MCI)とは

  • 正常と認知症の中間の状態。
  • 物忘れはあるが、日常生活に支障がない。
  • 年間10~30%が認知症に進行する。
    (正常な人からは年1~2%が認知症発症)
  • 一方、正常なレベルに回復する人もいる。
    (5年後に38.5%が正常化したという報告あり)


お金の管理が難しくなったら

認知障害があらわれると、病院にかかったり、介護サービスを利用したりすることになります。進行すると、高齢者施設への入居を検討することもあるかもしれません。
しかし、病院にかかるにも介護サービスを利用するにも、支払いや契約行為が発生します。
もしもそういう事態になったら、どうするかを考えておくことは大切です。
原則、預貯金から出金できるのは名義人と後見人のみ。配偶者や子どもがおろすには委任状が必要です。委任状を書ける状態でなければ……?

まず、公共料金やクレジットカードの引き落とし口座は、年金が入金される口座に1本化しておくことをおすすめします。何らかの事情でしばらく口座管理ができなくなっても、残高不足に陥ることを予防できるからです。

また、自分で入出金できなくなっても困らないよう、金融機関によっては、2枚目のキャッシュカード「代理人カード」を作れるので、作成し家族に預けておくのも手。「代理人」を事前登録できる金融機関もあります。

こうした準備をしないなら、何かのときに家族に代理で出金してもらえるようキャッシュカードは家族の分かる場所に保管を。暗証番号をどこかに書いておくなど託せる体制作りを心がけましょう。

代理でサポートしてくれる公的なサービスもあります。「日常生活自立支援事業」という国の事業です。窓口は地元の社会福祉協議会。介護サービスなどの契約、病院などへの支払い、預貯金の出し入れなどを代行してくれます。
ただし、この事業は、本人に利用する意思があり、ある程度内容を理解でき、社会福祉協議会と対等な立場で契約できることが前提条件です。

自宅を売却して施設入居したいような場合

あまり考えたくないですが、認知症が進行し、さらに判断力が低下することもあるかもしれません。
「定期預金を解約して介護費用に充ててほしい」とか、「自宅を売却して、施設の入居契約をしてほしい」というような希望があるなら、自分で判断できるうちに準備しておかなければなりません。

シミュレーションしてみましょう。
あなたは、「だれに」「何を」してもらいたいですか。具体的に考えてみてください。

その願いをかなえるために有効な方法の1つに成年後見制度の「任意後見」があります。将来の財産管理や身のまわりのことについて支援してもらう人を決め、内容について公正証書で契約をしておくものです。

一方、「家族信託」が役立つ可能性もあります。保有する不動産・預貯金などの資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。

こうした準備をしないまま、判断力が低下して生活に支障が生じたら、家庭裁判所に申し立てて成年後見制度の「法定後見」を利用します。
しかし、「任意後見」とは違って、後見人を決定するのは家庭裁判所です。後見人には家族ではなく、司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることが少なくありません。専門家が後見人になったら、当然、月々の報酬が発生します。また、自宅の売却については家庭裁判所が許可しないケースが多いようです。

判断力が著しく低下したときに使える3つの制度の違い

   

任意後見法定後見家族信託

だれに託すか

本人が選ぶ

家庭裁判所が選ぶ

本人が選ぶ

いつ?

本人の判断力がしっかりしているとき

本人の判断力が低下してから

本人の判断力がしっかりしているとき

監督人

監督人が選任されることが多い

監督人が選任されることが多い

必要なし

取消権

なし

あり

なし

居住用不動産の売却

契約書に定めておけば家庭裁判所の許可不要(監督人と相談の上)

家庭裁判所の許可が必要

契約書に定めておけば家庭裁判所の許可不要

報酬

原則家族なら不要
監督人は1〜3万円/月

専門家なら3〜6万円/月
監督人は1〜3万円/月

原則不要

※筆者作成

悪徳業者の標的にならないために

認知症になるなど判断力が低下すると、生活に支障が生じるだけでなく、悪徳業者や詐欺グループなどよからぬ輩が近づいてくることがあります。

これだけ社会全体で注意が呼びかけられているのに、振込め詐欺など、特殊詐欺はとどまる様子はなく、2019年の件数は16,851件、被害額は315.8億円。全体の内、83.7%の被害者が65歳以上のシニア世代です(警察庁)。

詐欺と気づいたら、警察に通報しましょう。
消費生活センターなど相談できる窓口もあります。消費者が商品・サービスなどの契約を交わした後、所定の期間内なら「クーリング・オフ」を使って、一方的に契約を解除できることも覚えておきましょう。
先に紹介した成年後見制度の「法定後見制度」を利用した場合は、騙されて何か購入した場合などに、その契約を取り消すことができます。

まとめ

「もしも、判断力が低下したら、家族が何とかしてくれるだろう」との考えは甘い!と理解を。
在宅で何らかのサービスを利用するにも、施設に入居するにも、支払いや契約行為は発生します。準備をしていないと、家族では口座からお金を移動することさえ容易ではありません。
そのときに、自分の思い描いた生活をおくりたいと願うなら、事前の備えが大切です。

参考:「認知症施策の総合的な推進について参考資料」(2019年,厚生労働省)


(情報は2021年2月5日時点のものです。)

この記事を執筆した人
太田 差惠子

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点でさまざまなメディアを通して情報を発信する。企業、組合、行政での講演実績も多数。AFP(ファイナンシャルプランナー)の資格も持つ。一方、1996年親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。

<主な著書>「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」「高齢者施設お金・選び方・入居の流れがわかる本」(共に翔泳社)、「遠距離介護で自滅しない選択」「親の介護で自滅しない選択」(共に日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)ほか

http://www.ota-saeko.com/

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