コラム

親の家の相続で起こること|相続したくないならどうすればよい?

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この記事の内容

この記事を監修した人
弁護士法人プラム綜合法律事務所 梅澤康二

私は、日本の4大法律事務所の一つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所において6年間の実務経験を積み、その間、数多くの労働問題、訴訟・紛争事件、M&A取引、各種契約書の作成・レビューその他企業法務全般を主担当として処理・解決して参りました。弁護士法人プラム綜合法律事務所は、そのような前事務所で賜ったご指導・ご支援に恥じることのない、最高品質のリーガルサービスを提供することを信念としており、ご相談案件一つ一つについて誠心誠意対応させて頂きますので、安心してご連絡、ご相談ください。

http://www.plum-law.com/

この記事をおすすめする人

高齢の親と離れて暮らしている方


この記事のポイント

  • 親の家を相続すると固定資産税や維持費といった費用が定期的にかかる
  • 親のマンションへの住み替えや相続放棄を行えば相続不要になる
  • 空き家バンクや特別控除を利用すれば、相続した家も処理・活用できる


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時代とともに進化してきた交通・通信の技術による影響や、都市部と地方の経済格差により、離れて暮らす親と子は珍しくありません。そうなると、子ども側にとって気になるのは「もし両親ともに亡くなってしまったら、実家はどうすればよいのだろう?」という問題です。両親以外にもだれかが実家に住んでいればまだよいのですが、兄弟姉妹みなが実家を離れている、ひとりっ子であるなどの場合には、何らかの手立てをする必要があります。それに加え、近年では空き家が社会問題となっていることから、両親がいなくなり実家を放置してしまうと、近隣に迷惑をかけてしまうかもしれません。

親の家の相続をどうすべきか、この記事で一緒に考えていきましょう。

親の家を相続するメリットとデメリット

親の家を相続する場合、家という資産が手に入る反面、本当にその家に価値が出るのか、などといった問題が起こり得ます。そうしたメリット、デメリットを取り上げます。

メリット

これまで住宅を賃貸で借りていた人にとっては、家賃を払わずに住む家が確保できることは大きな利点といえます。家賃に充てていた費用を別のことに使えるので、生活の質を向上させることにもつなげられるかもしれません。また、相続した家の資産価値が将来的に上がる可能性があります。たとえ相続人が住まないとしても賃貸に出せば、家賃収入を得られる可能性もあります。

何より、思い入れのある土地・建物に住むことが心の安らぎにつながるという人も少なくないでしょう。「退職したら生まれ育った故郷に帰りたい」という人にとっては、有意義な相続となります。

デメリット

家の相続では、固定資産税の支払いや維持費が定期的にかかります。立地の問題もあります。自身の通勤や子どもの通学が難しい場所だと、自分の家族に適した家とはいえないでしょう。場合によっては、転勤、転校も考える必要があるなど、家族に負担をかける場合もあります。

住まずに賃貸に出すのも簡単ではありません。借り主が現れない可能性があるからです。また、オーナーとしてメンテナンスは必須となります。

そして昨今、人口減少という問題が指摘されるなかで、とくに地方では不動産の資産価値の上昇はなかなか期待しにくいという実情があります。

親の家を相続するときにかかる税金など

相続は費用をかけずにできるものではありません。相続税のほか、専門家への依頼費用などもかかります。一つずつ見ていきましょう。

家の相続でかかるお金

相続でかかる費用として代表的なのは、相続税、登録免許税、専門家の依頼費用、相続手続きで必要となる書類の取得費用です。

相続税

預貯金、株式、土地、建物、生命保険金、死亡退職金などには相続税がかかります。ただし、相続税には、「基礎控除」という税金が免除される制度があります。基礎控除額を算出する計算式は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。法定相続人とは、法律で定められた財産を相続できる権利のある人のことを指しており、基本的な法定相続人は、被相続人の配偶者と被相続人の血族(子ども、代襲相続人、親、祖父母、兄弟姉妹)となっています。

たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人だったときの基礎控除額は3000万円+(600万円×3人)で4800万円となります。この場合、財産の合計が4800万円以下であれば、相続税はかかりません。

登録免許税

住宅を購入するときには、土地や建物に買った人の所有権を登記します。土地や建物を相続する場合には、親から自分に所有権を移転する登記が必要になります。登録免許税とは、この登記の際に国へ納める税金のことをいいます。

土地・建物を相続するときの登録免許税は、税率が「不動産の価額の1000分の4」です。

この登録免許税も条件によっては、免税措置を受けることが可能です。

専門家への依頼費用や必要書類の取得費用

実家を相続するための手続きを専門家に依頼した場合、依頼費用がかかります。また、手続きに必要な書類の取得費用がかかることも忘れてはなりません。

相続で節税するための制度

このように費用がかかる相続ですが、負担を軽減する制度も存在します。

相続税の負担を軽減する制度の一つが「小規模宅地等の特例」です。被相続人の自宅や事業に使っていた事務所、工場、店舗などが残された家族の生活基盤になっている場合、その財産に高額な相続税がかけられると、相続税が払えずにやむなく売却せざるを得なくなるという問題が起こりがちです。これを避けるために、一定の条件を満たす宅地については、評価を大きく引き下げて相続税の負担を軽減する措置が設けられています。小規模宅地等に指定されているのは大きく分けて以下の3種類です。

特定居住用宅地等

被相続人の自宅が建っている宅地などで、配偶者や親族が相続した場合、330平方メートル(約100坪)までは、課税価格が20%に引き下げられます。ただし、配偶者以外の相続人が該当する家を相続するときは、その家に住まなければならないなどの条件があります。

特定事業用宅地等

相続開始直前に被相続人が事業をおこなっていた建物や構築物の敷地を、親族などが相続した場合は、その事業を引き継ぐことなどを前提に、敷地の400平方メートルまでの部分について課税価格が20%に引き下げられます。

貸付事業用宅地等

相続開始直前に貸付事業用に利用されている土地(アパート、マンションのような不動産貸付業、駐車場、自転車駐輪場の貸付など)は敷地の200平方メートルまでの部分について、課税価格が50%に引き下げられます。

親の家を相続する方法

親の家を引き継ぐためにはどのような流れで相続手続きがおこなわれるのかを解説します。手続きは遺言書の有無によって大きく異なります。

遺言書がある場合

1.家庭裁判所で遺言書を検認

自筆遺言書の場合は、家庭裁判所での検認手続きを履践(実行)する必要があります。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。なお、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ開封しなければならないため、相続人であっても開封してはいけません。これは改ざんなどの可能性を排除するためであり厳守しましょう。

2.遺言書に沿って相続を進める

検認が済んだら、遺言書の内容に沿って相続を進めます。遺言書はその内容が何よりも優先されるものでありますが、相続人の全員の承諾があれば分け方を変更することができます。なお、遺言による財産処理が相続人の「遺留分」を侵害している場合、被侵害者は侵害者に対して侵害分の補填を求めることができます。相続財産に対する遺留分は、以下のとおりとなります。

だれが相続人か?(被相続人との関係)
相続財産に対する遺留分
相続人が配偶者しかいない場合2分の1
相続人が子しかいない場合2分の1
相続人が直系尊属しかいない場合3分の1
相続人が兄弟姉妹しかいない場合遺留分なし
配偶者と子が相続する場合配偶者、子とも4分の1ずつ
配偶者と被相続人の父母が相続する場合配偶者=3分の1、父母=6分の1
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続する場合配偶者=2分の1、兄弟姉妹の遺留分はなし

遺留分を請求する場合には、遺留分侵害の事実を知った日から1年以内又は相続開始から10年以内に相手方に対して「遺留分減殺請求」の意思表明をおこなう必要があります。

3.相続登記、相続税の納付

遺産分割、相続登記をおこなわなければ、相続した家の活用や売却などはできません。遺言書の相続登記の内容が法定相続人に対するもの相続であった場合は、相続の発生から10ヶ月以内に相続税の申告と不動産登記(相続登記)をおこなう必要があります。

物件調査や相続人調査、遺産分割協議などを経て相続財産を確定させたあと、必要書類を法務局に提出することで不動産登記の作業を完了させることができます。

遺言書がない場合

1.法定相続人と相続財産の調査

遺言書がないとわかったら、まずは法定相続人の確定をおこないます。被相続人の配偶者は必ず法定相続人となります。次に、第一順位の子どもと代襲相続人(直系卑属)、被相続人に子どもがいない場合は第二順位の親や祖父母(直系尊属)、直系卑属も直系尊属もいない場合は、被相続人の第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。遺言書がない場合は、法定相続人以外は財産を相続できないことが確定しているので、それ以外の調査をする必要はありません。法定相続人が確定したら、相続人全員の戸籍謄本を取得しましょう。

遺言書がない場合、相続財産と債務の内容を知る手がかりがないため、調査をする必要があります。相続は財産と債務を受け継ぐことであるため、この作業が必須になります。

2.遺産分割協議

相続財産と債務についての調査を終えたら、遺産分割協議によって法定相続人同士で財産を分けます。大切なことは法定相続人たち全員が遺産分割の方法について合意すること。逆にいえば、法定相続人が全員で承認した遺産分割協議書でなければ効力は認められません。なお、遠隔地に住んでいて集まるのが難しい場合は、電話などで協議したうえで、遺産分割協議書に後日に署名・捺印をもらう形でも問題ありません。法定相続人のだれかが行方不明になっている場合などは、弁護士、司法書士などに相談し、不在者財産管理人を選定する必要がありますので、弁護士や司法書士などの専門家に相談するべきでしょう。

3.相続登記、相続税の納付

相続登記、相続税の納付については、遺言書がある場合と変わりません。物件調査や相続人調査、遺産分割協議などを経て相続財産を確定させた後、必要書類を法務局に提出し、不動産登記を完了させましょう。

親の家を相続しない方法

冒頭で触れたとおり、親の家を相続することが、必ずしも幸せにつながるとはいい切れません。現在、親の住んでいる家を相続しない可能性が高い場合はどのような準備をする必要があるのでしょうか。

親に住み替えてもらう

現在住んでいる実家を売却し、そのお金でマンションに住み替えてもらうという方法が考えられます。一軒家と比べると、その後の売却や賃貸をしやすいというのがメリットになります。

近隣に住む親族に引き継いでもらう

自身の生活拠点が実家から離れてしまっている場合、近隣に住む親族に引き継いでもらうというのも有効です。ただし、相続の基本は法定相続人に権利が優先されるということを忘れてはなりません。法定相続人以外に引き継いでもらうときは遺贈となるため、親に遺言書を書いてもらう必要があります。遺言書を作成してもらうにあたり、もちろん、引き継いでもらう親族ともきちんと話しあう必要があります。

相続放棄をする

相続放棄をおこなうことで、親の死後に土地や家を手放すことはできます。ただし、この場合は家だけでなく預貯金、株、投資信託、自動車、家財道具などプラスの財産も一切手放すことになります。親の資産状況が赤字であるような場合でなければ相続放棄という選択肢は考えにくいでしょう。

引き継ぎたくない親の家を相続してしまったら

親の家を相続したとき、2024年4月1日以降は正当な理由なく相続登記をしていないと10万円以下の過料の制裁を受ける制度がスタートします。また、相続登記をしないままでは、さらなる相続や売却時にスムーズな進行ができません。

消極的な姿勢は建物の管理にも影響します。手入れや維持管理がおこなわれないと、家屋の損壊が起こったり、敷地内の植物が他人の敷地まで伸びてしまったりと、近隣に迷惑をかける可能性もあります。問題はそれだけにとどまらず、落書きが発生したり、だれもいないのをよいことに居座る人が出てくるケースも想定されるなど、風紀悪化の温床ともなり得るのです。

このようなトラブルを避けるためには、「相続をした家を上手に処理する制度」、「上手に活かす制度」を積極的に活用することをおすすめします。

相続土地国庫帰属制度

2023年4月27日から施行される、自身で管理できない土地を国有地として引き取ってもらう制度です。ただし、この制度はあくまでも土地を対象にしたものなので、家が建っている場合には更地にする必要があります。法務局による審査、承認を経て国庫帰属となるのですが、申請者は10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。

空き家バンク

相続後、早期に住宅を売却できれば固定資産税や都市計画税のような税金の支払いや、住宅の維持費や修繕費などが抑えられるため、不動産売却は有益な選択肢といえます。そうはいっても、すぐに買い手がつかないということもありますし、売り主と買い主の直接取引では、トラブルが発生することもあります。その場合には、自治体の主導する空き家バンクを利用するのもよいでしょう。空き家バンクとは空き家の売り手と借り手を仲介してくれるサービスです。自治体によっては不動産会社に売却を依頼するときほど費用がかからない場合もあるなどのメリットがあります。ただ、原則的に取引は売り手と買い手のあいだのみでおこなわれ、万が一、トラブルが起こっても行政は介入してくれない点は覚えておきましょう。

相続空き家の特別控除を利用する

空き家の発生を抑制するために特例措置として、「空き家譲渡所得の3000万円の特別控除」という制度があります。空き家を売って得た所得に対し譲渡所得税3000万円が控除されるというものです。

ただし、この制度が認められる条件はいくつかあります。まずは、被相続人が亡くなった時点でひとり暮らしの物件であること。次に、「1981(昭和56)年5月31日以前に建築された建物とその敷地」であること。これは旧耐震基準で建てられた家であるかということで、たとえ旧耐震基準の家をそのまま売っても控除は受けられません。建物を取り壊して敷地のみの譲渡にするか、耐震リフォームをしてから譲渡する必要があります。また、相続から譲渡まで引き続き、空き家であったという事実も条件になります。事業や貸付、居住などに使用した場合には特別控除は認められません。このような内容に当てはまる場合には、相続空き家の特別控除を利用するのもよいでしょう。

親だけでなく自分の終活も視野に入れる

この記事の読者の多くは、親からの相続が現実的に視野に入っている方だと思います。目下の課題は、親の家を相続する、あるいは、しないことにあるかもしれませんが、この選択は自分自身の終活にも深くかかわってきます。たとえば、自分が年齢を重ねて社会の第一線から退き、どこかでゆっくりしたいと考えたとき、実家を終の住処に考えるか否かという可能性が浮かんでくることでしょう。実家を相続したがシニアが暮らすにはあまりにも使い勝手が悪かったというケースもあるでしょうし、反対に相続せずに処分してしまったが実家が静かで落ち着く環境だったと後悔するケースもあるかもしれません。相続を考えるときには、自身の将来設計も見すえた判断が必要なのです。

そして、もう一つ考慮しなくてはならないのが親の意思。自身は相続したくないと思っていても、親はあなたに引き継いでくれるものと信じている場合があります。「相続しない」という考えを持ったことは相応の理由があってのことでしょうから、親の思いを無理に引き受ける必要はありません。ただ、親と意見が食いちがうならば、思いを汲み取りつつも冷静に自分の考えを告げることが、大切なプロセスとなるはずです。じっくり話しあうことが、きっとお互いの納得する形での相続につながると思います。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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