コラム

2023年4月に改正される育児・介護休業法の概要とポイント

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藥師寺正典

弁護士法人第一法律事務所パートナー弁護士。DOTZ株式会社監査役。第一東京弁護士会労働法制委員会、日本CSR普及協会(雇用労働専門委員)、経営法曹会議等に所属。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・労働訴訟等の係争案件、団体交渉(組合・労働委員会)、労災(行政・被災者対応)、労務DD対応を得意とする。

主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『Q&A 会社のトラブル解決の手引』(新日本法規出版 共著)など。

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これから育児や介護をする必要がある方


この記事のポイント

  • 育児休業は通算10ヶ月、介護休業は93日まで取得可能
  • 企業によっては育児・介護休業の期間は無給の場合もある
  • 母親が専業主婦でも父親は育児休暇を取得できる


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2022年、日本における65歳以上の人口は3627万人と、過去最多になりました(2022年9月総務省統計局の推計より)。要介護・要支援認定を受けた「介護・支援を必要とする人」の数となると、こちらも過去最多となる682万人に上ります(厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告」より)。シニアの方にとってはもちろん、実際に介護にも携わる家族にとって、深刻さを実感できる問題といえるでしょう。

一方で、子育て世代にも大きな問題があります。1990年代に共働きと専業主婦の世帯数が逆転して以来、いまや共働き世帯数は専業主婦世帯の倍以上になりました。共働き夫婦の「育児」には、お互いの協力が不可欠ですが、まだまだ社会全体での男性の育児休業取得率は低い数値にあり、制度に課題がのこっていることが指摘されています。

そんな仕事と育児・介護の両立を目指す法律が、「育児・介護休業法」です。昨今の社会情勢を鑑みて、2021年6月に改正され、2022年4月から段階的に施行が始まっています。

この記事では、少子高齢化が進むなかでより重要となっている育児・介護休業法について、2023年4月1日に施行される改正法を中心に、概要とポイントを解説していきます。

育児・介護休業法とは

正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。1992年に施行された「育児休業法」をもとに、1995年に「育児・介護休業法」として改正されました。働く人たちが仕事と子育て・家族の介護などを両立できるように、これまで何度も改訂され、制度が整備されてきました。

2023年4月に施行される改正法のポイントは?

2023年4月1日から施行される改正法では、1000人をこえる従業員を雇用する事業者に、育児休業などの取得状況の公表が義務付けられるようになります。具体的な公表内容は男性従業員の「育児休業の取得割合」、または「育児休業と育児目的休暇の割合」になり、自社の公式ホームページや厚生労働省が運営するWEBサイト「両立支援のひろば」など、だれでも閲覧できる形での公表が必要です。

今回の改正は事業者側に向けての改正であり、労働者側に直接的な影響はないといえますが、対象となる企業にとって、「育児休業取得率の公表」は、労働生産性の向上、有為人材の確保に加え、会社のCSR活動の一環として社会的評価にもつながる重要な取り組みといえます。経営者や管理職、労務担当者の方は改正への対応や、男性従業員自身も積極的に育児休業を取得しやすい環境づくりが求められています。

2022年に施行された育児・介護休業法の内容

育児・介護休業法は2021年6月に改正され、2022年4月と同年10月、そして2023年4月の3回に分けて段階的に施行されています。

改正の概要と施行のスケジュールをまとめると、以下の表のようになります。

施行の順番改正内容施行日
1雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化2022年4月1日より
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
2産後パパ育休(出生時育児休業)の創設2022年10月1日より
育児休業の分割取得
3育児休業取得状況の公表の義務化2023年4月1日より

(参照:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)

2022年4月1日に施行された改正法のポイント

2022年4月の改正点は、大きく三つに分けられます。

1点目は、育児休業・産後パパ育休を取得しやすい雇用環境の整備です。事業主は、育児休業・産後パパ育休の申し出が円滑におこなわれるよう、育児休業・産後パパ育休に関する「研修の実施」「相談窓口の設置」「事例の収集・提供」「制度と育児休業促進に関する方針の周知」のいずれか、または複数の措置を講じることが義務付けられました。

2点目は、労働者が本人またはその配偶者が妊娠・出産をしたとの申し出をした際、事業者は労働者に対して休業に関する周知と取得するかの意向を、個別に確認することについてです。

3点目は、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和に関してです。育児・介護休業の取得要件について、改正前は「(1)引き続き雇用された期間が1年以上(2)1歳6か月までのあいだに契約が満了することが明らかでない」とされていましたが、(1)の要件がなくなり、雇用形態にかかわらず育児・介護休業を取得できるようになります。

ただ、あらかじめ労使協定を締結することで、「引き続き雇用された期間が1年未満」の労働者は育児休業を適用除外にすることもできます。

2022年10月1日に施行された改正法のポイント

2022年10月改正のポイントは以下の2点です。

1点目は、産後パパ育休(出生時育児休業)の創設。男性の育児休業取得促進のため、育児休業とは別に取得ができる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新たに創設されました。男性の育児休業取得のニーズが高い、子どもの出生直後(出生後8週間以内)に4週間まで取得可能で、分割して2回取得することができるため(まとめて申出が必要)、より柔軟な育児休業の取得に対応できるようになっています。

そして2点目は、育児休業の分割取得です。1歳までの育児休業は、分割して2回取得可能になりました。産後パパ育休と合わせると、子どもが1歳になるまでのあいだに、合計4回までの育児休業が取得できるようになっています。

育児・介護休業法に関するQ&A

続いて、育児・介護休業法でありがちな疑問と、その答えを記します。

何日まで取得できるの?

育児・介護休業の取得日数は、育児休業の場合と介護休業の場合で異なります。

育児休業では、約10か月が目安

原則「子どもの出生から1歳になる前日までの期間、母親の場合は産後休業8週間を終えた後から子どもが1歳になる前日までの期間」が育児休業として取得できます。保育園に空きがない場合や配偶者に怪我や病気があった場合などは、子どもが1歳になる前に申請をすることで6ヶ月の延長が可能です。さらに事情がある場合には、申請をすることで最長2歳になる前日まで延長できます。

また、父親、母親ともに育休を取得する場合には、「パパ・ママ育休プラス」という特例もあります。配偶者がすでに育児休業をしている場合、育児休業の対象となる子どもの年齢が「1歳に満たない子ども」から、「1歳2カ月に満たない子ども」へ延長になります。ただし、取得できる日数は1年(365日、うるう日を含む場合は366日)になるため、夫婦が分割して交互に育児休業を取得するなどを前提にした制度になっています。

介護休業の場合は通算93日まで

対象の家族1人につき通算93日まで、3回に分割して取得できます。対象の家族とは、休業を取得する人本人の父母、祖父母、兄弟姉妹、子、孫、本人の配偶者の父母です。

母親が専業主婦の場合、父親は育児休業を取得できるの?

取得可能です。「産後パパ育休」も問題なく取得でき、育児休暇は「子どもの出生から1歳になる前日までの期間」取得することが可能です。

介護休業は無給って本当?

介護休業はもちろん、育児休業についても、育児・介護休業法では事業者へ給与の支払い義務を課していません。よって、育児・介護休業時は無給とする企業が多々見られます。もっとも、企業によっては育児・介護休業を有給休暇とするケースもあるため、お勤めの会社の就業規則をご確認ください。

また、過去2年間に就労日数を満たした月が12か月以上あり、休業の取得可能期間内(育児休業では子が1歳6か月になるまで、介護休業は休業開始日から93日以内)に契約が終了しないなどの場合は、「育児休業給付」「介護休業給付」が受給できます。最大で賃金月額の67%が支給されるものです。これらの窓口は、ハローワークです。

覚えておきたい育児・介護休業に対する心構え

事業者側は、労働者側の育児・介護休業の取得を拒否することはできません。とりわけ2022年4月の改正により、育児・介護休業の取得をしやすい環境整備や労働者への周知徹底が求められています。2023年4月からは、対象となる企業の「男性従業員の育児休業取得状況の公表」が義務付けられ、事業者側はさらに育児・介護休業取得の促進を図っていかなければなりません。

労働者側の意識としては、育児・介護休業とはあくまでも労働者の権利であることを理解する必要があるのではないでしょうか。そして、育児や介護をするための休業であると認識することも大切です。育児休業期間は、子どもとたくさん触れあえる特別な時間です。介護休業も、介護を受ける人が安心感を得られますし、悲しいことながら終末期にある場合では休業によって看取りの時間がとれるという考え方もできるでしょう。たとえば育児休業を取得しておきながら、母親に子育てを任せっきりにするといったことのないようにしましょう。

育児・介護休業を活用して、明るい家庭と働きやすい環境を

日本の男性の育児休業取得率は13.97%とまだまだ低水準です(厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」より)。「育休を取ってしまうと、会社での居場所がなくなってしまうかもしれない……」という不安がよぎるなど、育児・介護休業に対しては、いまだにネガティブな姿勢になってしまうのが現状なのかもしれません。しかし、少子高齢化の人口減少局面にある日本において、仕事と家庭が両立できる職場環境の実現が強く求められています。

今回は、育児・介護休業法の改正について、概要とポイントを整理してきました。事業者側と労働者側の双方にとって、今回の改正は育児休業について考え直すきっかけになるともいえそうです。

事業者側の方は、今回の一連の改正を受け、「就業規則の改定」や環境整備などをおこなわなければなりません。たしかに相応の負担はあるものの、育児・介護休業法の改正に伴う環境づくりは、従業員にとって働きやすさが増し、より仕事に集中しやすい職場を実現する第一歩になり得ますし、企業の社会的評価にも影響してきます。休業者がいても事業への影響を抑えられるような組織づくり、マネジメントにつなげていくことが必要です。また、労働者側にとって、会社は生活の基盤といえます。自分が休業しても影響がでないよう配慮しつつ、就業規則や法律に則って、休業取得の意思を明確に伝えるよう努めるのがベターでしょう。

お互いの歩み寄りによって、明るい家庭と、より働きやすい職場環境を実現していけるとよいですね。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)


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