コラム

【元F1ドライバーに聞く】高齢者が直面するクルマの運転の問題|必要になるのは「さあ、行くぞ」の意識

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この記事の内容

この記事を監修した人
中嶋悟

元レーシングドライバー。NAKAJIMA RACING総監督。1953年、愛知県生まれ。1987〜1991年にF1に参戦。

この記事をおすすめする人

日常的に車を運転する高齢者の方


この記事のポイント

  • 若いころよりも安全運転への意識づけが必要
  • 「自分より大きなものを動かしている」意識と責任感を持つ
  • 75歳以上は認知機能検査と高齢者講習が必須


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近年、メディアで頻繁に取り上げられる「シニアの運転」と「免許返納」。2019年には、89歳の男性が運転する乗用車によって幼い子どもとその母親がはねられ死亡するという痛ましい事故が起きたこともあり、読者のなかにもお子さんなどから「免許を返納したら?」とすすめられている方もいるかもしれません。

一方、公共交通機関の利便性が低い地方に暮らす場合は簡単にはクルマを手放すわけにはいかないでしょうし、肉体の衰えをきちんと受け止めたうえでより安全な運転を心がけているシニアもいることでしょう。

シニアの運転は個々の生活環境や健康状態などが絡む、判断の難しい問題です。

その難しさを感じるのは、世界レベルの技術をもつ “運転のプロフェッショナル” でもおなじ。「F1で走ったプロだとはいえ、シニアの方に対して簡単に運転を『やめろ』とも『続けろ』ともいえませんね」

そう話すのは、モータースポーツの最高峰であるフォーミュラ1(F1)に日本人としてはじめてフルタイム(全戦参戦)で出場したドライバー、中嶋 悟さんです。今回は、シニアの運転をどう考えているのか、中嶋さんにインタビューしました。

元F1ドライバー・中嶋悟さんについて

――まずは中嶋さんのご経歴を教えていただけますでしょうか?とくに、運転という視点からどんな人生を歩まれてきたのか、教えてください。

クルマで始まりクルマで終わる、そんな人生をおくってきました。1953年に愛知県で生まれて、18歳で免許を取得してから1991年に引退するまで、ずっとサーキットでステアリング(ハンドル)を握り続けましたね。

引退してからはレーシングチームの総監督として、チームのマネジメントや後進の育成をしています。

――現在も日常ではクルマに乗り続けていらっしゃいますか?

それはもう、日々の買い物や旅行もそうですし、仕事でサーキットへ行くときも自分で運転して向かいます。今日も、自宅のある愛知からここ(東京にある中嶋さんの事務所)まで運転してきました。サーキットへ行くときは、遠い場所だと自宅から栃木県や岡山県まで運転しています。69歳となったいまも現役のドライバーです。

だから、クルマがないと生活が難しくなるという人の気持ちは十分にわかりますし、歳をとったからといって簡単に「運転をやめろ」と私はいえません。そこのところを理解していただいたうえで、インタビューしてくださいね。

運転における身体の機能とクルマの機能、そしてマインド

――では、運転に必要な身体の機能、あるいは状態として何が必要か、教えていただけますでしょうか?

そもそも運転免許を取るときに、運転に必要な機能が備わっているかを見られるわけですよね。なので、免許が取れるだけの身体の機能……アクセルを踏む、ブレーキを踏む、ハンドルを回す、などができれば問題ありません。

ただ歳をとると、免許を維持できるだけの身体であったとしても、衰えがあるのも事実です。たとえば、運転中に身体をひねって脇を見る、などの動作がどうしても苦になってしまう。そういうときに、シニア世代のような経験のあるドライバーだと、ちょっと手抜きをしても大丈夫だろうと必要な手順を省いてしまうことがあります。すると、事故が起きるリスクも生じますね。

――一方で、クルマの機能は時代を経るごとに進化しますよね。いまの大体のクルマには、ミッションがオートマチックでパワーステアリングがついている、などが挙げられます。

ええ、より安全を求めてクルマが進化してきたといえるでしょう。一昔前のクルマと比べても、運転はだいぶ楽になったと感じます。

しかしだからといって、クルマの持つ力が30年前といまとで変わるわけではありません。さまざまな安全装置がカバーしてくれたとしても、時速50キロで何かにぶつかったときの力は、昔もいまもおなじなんです。

何よりも、「自分の身体より大きなクルマを動かしている」という自覚をもつことが大切です。私もこの間、手を怪我してしまったのですが(苦笑)、部屋のなかで身体が何かにぶつかってしまうことが繰り返されるようなら、クルマで走っていてもぶつかってしまう可能性が高まりますので、注意したほうがよいですね。

――近年はサポカー(ブレーキのアシストやペダル踏み間違い加速抑制装置など、先進安全技術が搭載されたクルマ)が登場しています。これもシニアにとってはより安全に運転できる仕組みだと思いますが、いかがでしょう?

あれは、あくまでも補助装置ですからね。いまお話した「部屋のなかで何度も身体をぶつけていたら要注意」というのとおなじで、毎回サポート装置が作動するようなら気をつけたほうがいいですよ。「まさか」「もしも」のときのためのサポート装置という心がけが大切です。

そして、心がけという点では「さあ、行くぞ」ときちんと意識づけすることも運転には必要です。

――「さあ、行くぞ」ですか?

つまり、キーを回してアクセルを踏み込むときに「ここからは歩くんじゃない、自動車というスピードをもったものを動かすんだ」という意識です。と同時に、自分はどこからどこへ移動しようとしているのかも意識する必要があります。

よく聞く、バックするつもりで前進して建物に突っ込んでしまった、という事故もやはり「さあ、行くぞ」という気持ちが不十分だからではないかと。「さあ、行くぞ」と思うことが、クルマの周りに人やものなどがないかをきちんと確認し、そしてミッションがリバースに入っていることも確認し、アクセルとブレーキの踏み間違えもしないことにつながるのではないでしょうか。

「さあ、行くぞ」「自分はここからここへ行くんだぞ」と常に意識することが、事故発生の可能性を低減させるのだと思います。

運転を続けたいシニアがすべきこと

――若いころよりも一層の意識づけが必要ということですね。そこでお聞きしたいのが、「安全運転の仕方」です。シニアになって身体の反応が衰えるとともに、さらに安全運転を心がける人は多々いると思います。ただ、周りのクルマが時速60kmの流れに乗っているのに、自分だけは安全のために時速50kmで走る、なんてことはしてもよいのでしょうか?

スピード違反やよほど危険な流れになっていない限り、クルマの流れというのはそれはそれで安全や秩序を保つものですから、できれば流れに乗ったほうがよいといえるでしょう。

ただし、だからといって自分のペースで走ることが否定されるものでもありません。ゆっくり走るのであれば、2車線の道ならば左側の車線を走る、1車線の道では後ろに速いクルマが来たら道を譲る、などをすればよいと思います。

――中嶋さんご自身は、歳を重ねられてから運転に変化はありましたか?

休憩する時間が増えました。若いころは名古屋から東京までの300kmくらいならば休憩なしで移動することもあったんですが、最近は2回くらい休憩をはさみます。

とくに意識していることではありませんが、年間5〜6万kmほど走っていると、自然とそうなりましたね。

――運転歴が数十年におよぶシニアだと、プライド、自負のようなものがあって運転のスタイルを変えるというのは難しいと思う人もいるかもしれません。

ただ、この記事のテーマになっている「高齢者は運転を続けてもよいのか」というのは、結局のところその人が最終的に判断することですからね。最初にいったように、私は「運転するな」という考えではありません。もちろん、安全運転や無理をしない運転は大前提ですが、運転を続けるのか、運転スタイルをどう変えるのか、はドライバー自身が自分の身体の状態を見ながら決断することだと思います。

それとともに、クルマも変化している、という点は頭に入れておいたほうがよいかもしれません。

先ほども話に出たように、いまのシニアのドライバーが免許を取ったころはマニュアル車が一般的でした。また最近はパドルシフトのようにクルマの動かし方までボタンに拠る場合がありますし、ハイブリッドカーや電気自動車だとスタートボタンを押してもエンジン音がしませんよね。つまり、昔のクルマとはだいぶちがう。

昔のクルマだったら、エンジンの起動音を聞く、クラッチを踏む、ギアを入れるという動作で「さあ、行くぞ」の意識づけができたんですけどね。だから、いまのクルマに乗る以上は「さあ、行くぞ」の意識が以前よりも増して必要になってきます。

「さあ、行くぞ」の意識と責任がもてなくなったら、免許返納も選択肢に

――免許返納についても伺おうと思ったのですが、結局はその人自身が自分を顧みて判断すべきこと、というのが中嶋さんの考え方なんですね。

そうですね。明確にこれという答えは出せません。90歳になっても若い人に負けないくらいの肉体や神経を維持している人もいれば、60歳でかなり身体が弱ってしまう人もいますよね。だから、運転を続けられるかどうかも当然、個人差が出てきます。

それに加えて、クルマがなければ生活が成り立たない場所に暮らす人もいるわけです。そういう人に対して、「歳をとったんだから、免許を返納しなさい」とは簡単にはいえませんよね。

――こういった身体の変化があったら運転はやめるべき、というのもやはり一概にはいえないのでしょうか。

うーん、難しいですね。たとえばアクセルとブレーキの踏み間違えなんて、シニアだけじゃなく若い人だって起こしているわけです。もし、歳をとって身体が衰えたから運転をやめなさいというならば、そういう若い人にも運転をやめてもらわなければなりません。

だから、クルマに乗り続けるならば「自分の身体よりも大きなものを動かしている」という意識、そして「その大きなものは、自分だけでなくほかの歩行者やドライバーも傷つけ死なせてしまうこともある」という意識が必要なんです。

こうした意識、責任感が薄れてきたと感じたならば、クルマから降りるのも選択肢の一つに挙げたほうがよいかもしれません。

まとめ

インタビューのなかでも象徴的だった「さあ、行くぞ」という言葉を、みなさんはどう受け止められましたでしょうか?

この言葉には「クルマという、使い方を間違えれば危険なものを自分は動かしている」「クルマは自分よりも大きいのだから、その大きさの感覚を身に着けていなければならない」、そして「クルマを使って、自分はどこからどこへ行こうとしているのかを意識しなければならない」といった意味が含まれています。

現に運転を続けているシニアのみなさんは、まずこうした意味を噛み締め、運転の仕方を変える、場合によっては免許返納を検討するといったことなど、さまざまな方向性に考えをめぐらせると、上手なクルマとの付き合い方につながると思います。

なお、75歳以上の人が免許を更新する際は、認知機能検査と高齢者講習が設けられています。さらに、道路交通法の改正によって、2022年5月13日からは一定の違反歴がある75歳以上の人に、運転技能検査が義務づけられるようになりました。

認知機能検査で「記憶力・判断力が低くなっています」という判定が下された場合には専門医の診断が必要とされ、場合によっては免許取り消しとなる可能性もあります。また、おなじく認知機能検査では「記憶力・判断力が少し低くなっています」と判定される場合もあり、この判定が下されると通常の高齢者講習より1時間長い3時間の講習を受けなければなりません。これらも、シニアとして運転を考える一つの目安となりそうです。

免許を返納する、安全運転を心がけながらクルマに乗り続ける、いずれの選択をとるとしても、あらためてご自身の身体の状態と運転を見つめ直してみてはいかがでしょうか。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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