コラム

【納棺師に聞く】亡くなった人の“旅支度”をする「納棺」具体的には何をする?

この記事の内容

通夜や告別式など、お葬式に関する儀礼・儀式は多々存在しますが、その一つに「納棺」があるのをご存じでしょうか。一般的には、通夜の前に、故人を棺に納める儀式のことを指しますが、単に棺に納めるだけではなく、故人がこれから歩む「旅」への身支度をする機会になっています。

そして、この納棺を手助けする存在として「納棺師」がいます。映画『おくりびと』でその存在を知った方が多いのではないでしょうか。今回インタビューした木村光希さんは同作で技術指導を務めた納棺師の子にあたり、自らも納棺師である人物。納棺では具体的に何がおこなわれるのか、納棺師は何をするのかを伺いましたので、ぜひご覧ください。

納棺とは?

――読者のなかには、納棺という過程自体を知らない人もいるかもしれません。納棺とは一体何のことなのか教えてください。

納棺は、棺のなかに故人を納めることです。しかし、納棺師……私たちは「納棺士」と呼んでいるのですが、その仕事の幅はもっと広くなります。たとえば、亡くなったすぐあとに初期処置をおこないます。お口や鼻に脱脂綿をつめるなどが初期処置です。これは病院の看護師さんや葬儀社のスタッフがおこなう場合も多いですね。そのあとにからだを清め、死装束に着せ替え、死化粧をして、棺のなかに納める儀式をおこないます。

――亡くなってからお葬式までのあいだにさまざまな儀式がありますよね。たとえば、「末期の水」で旅立ちのために水で口元を湿らせてあげたり、「湯灌」でお清めをしてあげたり。こうしたなかで、納棺はどのような意味合いをもつのですか?

納棺という儀式自体に、宗教的な意味合いはないんです。ご家族、ご遺族にとって死を受け止める場という表現をするのが適切かもしれません。納棺する前は、布団のなかで故人が眠っています。これは、日常的な光景ですよね。それから納棺をすることで、棺に入るという非日常の光景に移り変わります。こうした、日常から非日常への場面の転換によって、ご遺族にとって「ああ、本当に亡くなったんだな」と実感ができるものと考えています。

私たちはこの、大切な人と死別した深い悲しみや喪失感を抱えているご遺族へ寄り添う「グリーフ・ケア」を大切にしています。

――納棺師という存在は日本独自の文化なのでしょうか。

そうですね。そもそも、日本における納棺の儀式の歴史自体、実は非常に浅いんです。かつては納棺師ではなく、家族が故人のからだを清めてあげて、棺に納めていました。それが次第に僧侶や葬儀社がおこなうようになり、昭和になってから納棺師のような死後の処置をする専門職が生まれたといわれています。アジア文化圏のなかでは、納棺と同様にからだを清める風習はあるようですが、おそらく納棺師のような存在は日本独自だと思います。

儀式としての納棺の流れ

――では、木村さんたち納棺師が具体的にどのような流れで納棺をおこなっているか、教えてください。

はい、先ほどお話した初期処置ではなく、一般的に通夜の前におこなわれる納棺について説明します。通夜が18時に開式だとしたら、納棺は15時か16時ごろにおこなわれることが多いです。要する時間は1時間ほどです。

納棺でおこなわれることは大きく分けて3つあり、着せ替え、お化粧、からだを拭く、となります。着せ替えでは、もともと寝間着を着ていたところから、いわゆる死装束に着せ替え、比較的多いのは白装束に羽織を着せ足袋、脚絆、手甲を身に着けて差し上げるという流れです。ただ、この流れは四十九日の概念がある仏教の宗派の場合で、おなじ仏教でも、四十九日までの旅をするという概念のない浄土真宗では、足袋、脚絆、手甲は身に着けないことが多いです。また、死装束はこれといったきまりがあるわけではございません。私がこれまでおこなった納棺のなかでは、警察官や自衛官の方には制服を着せましたし、キリスト教の納棺ではスーツを、またときには柔道着を着せるということもありました。

――着せ替えるとなると、亡くなった方の裸が見えてしまいそうですが……?

そこが納棺師がもつ技術の一つで、着ている寝間着の上から死装束となる服を着せ、そのあとで寝間着を抜き出すんです。そうすると、肌が露出せずに着せ替えることができます。(納棺のデモンストレーションを収録した動画を見ながら)また、この動画ではご遺体の向こう側に納棺師がおり、手前側にご遺族がいることになりますが、納棺師は故人の向こう側から動くことはありません。ご遺体の手前側に回り込むなどをしてしまうと、ご遺族の視界を遮ってしまいますし、ご自宅で納棺する場合はそもそも広さの面で回り込めない場合があります。もし納棺に「流派」のようなものがあるとすれば、私たちの流派のやり方はこうして納棺師が動かない点が特徴だと思います。

――お化粧やからだを拭くのはどのようにおこなわれるのですか?

ご遺族のお手を借りながらおこないます。からだを拭くのもそうですし、あとは口紅を塗るなどもご遺族にしていただきますね。納棺師は「おくりびと」とも呼ばれますが、私たちは納棺師だけでなくご遺族、納棺に立ち会う人の「みんながおくりびと」だという考え方をもっています。なので、納棺の儀式も納棺師だけがおこなうのではなく、ご遺族と一緒になっておこなうものなんです。

――いい言葉ですね。ただ、ご遺族のなかには正直なところご遺体に触れることに抵抗をもつ方もいるのではないかと思いますが?

そうですね。私たちは「よろしければみなさまのお手添をいただきながらお着せ替えしていくことも可能ですがどうされますか?」「もし抵抗があれば私たちのほうで進めていきますけれどもどうされますか?」とコミュニケーションをとりながら進めています。また、納棺は必ずしも故人に長く触れることばかりではありません。そういった方にはたとえば帯を締める、すこし故人のお体を支えていただくなどのお手添をしていただいております。

――また、悲しさのあまり取り乱してしまう方もいるのではないかと思いますが、いかがでしょう?

正直なところ、お葬式は決められたスケジュールで動いている側面がありますので、大幅に予定の時間を過ぎてしまいそうな場合は、先に進めるようお声がけする場合もあります。ただ、そうしたなかでもできる限りご遺族がお葬式や納棺に向きあっていただけるよう、故人に寄り添うための時間をかけています。

――木村さんはさまざまな人の死に立ち会ってきたと思いますが、とくに心に残っている納棺はありますか?

ご遺族に迷惑をおかけしないように、あまり感情的にならないよう心がけているのですが、それでも小さなお子さんの納棺は、とくに心が痛んで記憶に残りますね。おむつを替えてあげたりお風呂でからだを清めてあげたりする段取りになると、納棺の前まで放心状態だったお父さん、お母さんが急に泣き出してしまうことがあるんです。納棺師であってもその場にいるのがつらいくらいです。そういうときは、格式張った、儀式的な納棺をおこなうのではなく、ただただお父さん、お母さんがお子さんの身支度を整えるのをお手伝いする気持ちで臨んでいます。

遺族が納棺で準備すべきこと

――もし、納棺を納棺師にお願いしたい場合はどうすればよいのでしょう?

基本的には、葬儀社が提供するプランのなかに納棺師による納棺が組み込まれている場合が多いです。納棺師の立ち会いを希望されるのであれば、葬儀社にどのような納棺師にお願いしているか聞いてみるとよいと思います。

――費用はどのくらいかかるのですか?

葬儀社のプランに組み込まれているので、ご遺族の方が目に見える形で納棺師の費用はいくらとお話するのは難しいのですが、アルコールでからだを拭く場合で5万〜7万円、シャワーでからだを清める場合で7万〜10万円ほどですね。

――納棺にあたって、ご遺族が準備しておかなければならないことはありますか?

物の準備と心の準備です。物の準備は、故人に着せてあげたいものや身につけてあげたいものをご準備いただけると、納棺の際に着せ替えられます。また、故人が普段愛用していた化粧品や整髪料を用意いただければ、それを納棺の際に使うこともできますね。

一方で、火葬場の規制によって金属製品や革製品は棺のなかに入れられないのが一般的ですのでご留意ください。また、ときどき「あの世でもたらふく食べられるように」と多額の紙幣を用意する方もいらっしゃるのですが(苦笑)、現金や高価な装飾品などを棺に入れるのは盗難などのトラブル防止のため、お控えいただいております。

――では、心の準備とは何でしょう?

一つは、棺に入る前のお布団で寝ているときの近い距離感でいられるのは、最後であることを頭に入れていただければと思います。もう一つは、棺のなかに入った故人の姿というのはかなり衝撃的な光景のため、ショックを受けるかもしれないという心の準備もしていただけるとよいですね。多くの方は、そこではじめて死を認識することもあります。

――最後に、これから納棺に立ち会うかもしれない方へのメッセージを聞かせてください。

冒頭で納棺によって非日常の光景に変わると述べましたが、非日常ということは、そう何度も経験できないことでもあります。そのため、わからないことはどんどん葬儀社に聞くのがよいと思います。もちろん、納棺に関することは納棺師に聞いてもよいでしょう。そういう意味では、葬儀社選びも大切かもしれません。納棺師からすると、ときには処置が適切ではない故人にお会いすることもあります。そうならないためには個人への手当てやお化粧などで何度も訪問してくれる葬儀社がよい葬儀社といえます。気になる方は、葬儀社にお願いするとき、「何回、訪問してくれますか?」と尋ねるとよいと思います。

納棺は故人のための旅支度

宗教宗派によって人の死の受け止め方は異なります。しかし死=この世での生活を終え新たな歩みを踏み出す、という捉え方は、共通していえると思います。その点で、納棺は新たな歩みのための旅支度の場といえるでしょう。

できるだけ生前に近い姿で故人が自分らしく旅立つお手伝いをするために存在するのが、納棺師です。読者のみなさんも、もし納棺に立ち会う機会があれば、今回の木村さんのお話を思い出して臨んでみると、故人がより気持ちよく旅立てるかもしれません。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部 情報は2021年10月26日時点のものです。)

この記事を監修した人
株式会社おくりびとアカデミー代表取締役 木村 光希

幼少の頃より、納棺士である父の影響もあり、遊びの一環として納棺の作法を学ぶ。

延べ3000人以上の納棺実績と所作の美しさは定評があり、アジア地域(韓国・中国・台湾・香港)で納棺の技術指導経験も有。

また、2015年10月、納棺士が葬儀をプロデュースする葬祭ブランド「おくりびと®のお葬式」を立ち上げ、全国で11店舗展開中。

映画「おくりびと」で描かれた、亡き人を悼み送る、若き納棺師として注目され、2019年5月NHK「プロフェッショナル―仕事の流儀―」にて放映された。

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