コラム

「自分でなんでもできる!」と頑なな母親にヘルパーを使ってもらうまでの道程

この記事の内容

[この記事を執筆した人]太田差惠子さんバナー

高齢になると、気持ちは元気でも、自分で行うことが難しくなる日常動作や家事があります。牛乳などの重い物の買い物。かがまないとできない拭き掃除。ゴミステーションが遠いと、ゴミ出しが難しくなることも……。

子どもが同居していたり、すぐ近所に暮らしていたりすればサポートできますが、距離があると簡単には手助けできません。

今回紹介する丸山さん(50代/女性/仮名/神奈川県)の母親(80代)は実家で1人暮らし。丸山さんは、「ホームヘルプサービスを利用すれば、母親の生活はもっと快適になる」と確信するのですが、話を向けると、母親は不機嫌になるそうです。

そこで丸山さんはひと芝居打つことに……。

“親の拒否”は最初のハードル

親の拒否に悩む女性

丸山さんの母親に限った話ではなく、多くの親は支援や介護にかかわる話しを提案しても聞く耳を持ってくれません。別のコラムで紹介している佐藤さんの父親は、認知症の専門医に行くことを拒否。第三者からいってもらってようやく受診しました。

丸山さんの母親は認知症というわけでもないのですが、物忘れが増え、足腰の調子が悪く、膝も痛いようす。そのため、丸山さんは「介護保険を申請したら?」とか、「寝てばかりいたら、身体が弱るよ」とかサービス利用を勧めるようにしてきました。しかし、母親は「うるさい。自分でなんでもできる」というばかりでした。

トイレが臭う

トイレ

あるとき、丸山さんは帰省して、実家のトイレに入り顔をしかめました。鼻をつく臭いがしたのです。汚したのに掃除ができておらず、時間が経ってしまったのでしょう。

丸山さんは、「母親が何といおうと、ヘルパーを入れよう」と決意。とはいえ、母親は介護保険のサービス利用には後ろ向きです。ここで強引にことを進めても反発を食らうだけかもしれません。そこで、まずは、地域の有償ボランティアのホームヘルプサービスを入れようと考えました。

「助けあいの会」の利用を目指す

ヘルパーと車椅子に座るシニア

丸山さんの母親が暮らす地域では、生協(生活協同組合)が組合員同士の助けあいとして、有償ボランティアのサービスを実施しています。「誰かの手を借りたい」と思ったとき、別の組合員が助けるという仕組みです。母親は食品の買い物に生協の個別宅配を利用していたので、丸山さんはサービスの存在を知っていました。

サポートしてもらうのにかかる費用は団体によって異なりますが、丸山さんの母親のところは1時間700円だとか。地域によっては、社会福祉協議会やNPOなどが助けあいの会を運営しているところもあります。介護保険では利用不可の内容(話し相手や庭掃除など)にもきめ細やかに対応してくれるところが多いようです。

とはいっても、母親にとっては介護保険であろうがボランティアであろうが関係ありません。「正攻法で攻めても拒否されるのが落ち」。

丸山さんは生協のコーディネーターに状況を説明。そのうえで、一計を講じたのです。

有休休暇を取って万全を期す

車椅子に座る人に手を携える女性

「最初が肝心」と、丸山さんは有給休暇を3日取得して万全を期して実家に滞在しました。

初回、訪問してくれたヘルパーのことを、丸山さんは母親に対し、丸山さんの“高校時代の友人”と偽って紹介。

2回目の訪問時には、母親の分もお茶を入れて、3人で世間話。

3回目の訪問時は、インターホン越しにヘルパーは「丸山さんの友人の●●ですが、トイレに行きそびれて。トイレを貸してもらえませんか」といって、トイレに直行。丸山さんは「お母さん、私がいないときも、トイレを貸してあげてね」といいました。

丸山さんが実家を後にした翌日、「トイレを貸してください」とヘルパーは4回目の訪問。そして、トイレを使っている振りをして、トイレ掃除をしてくれたのです。

その後も、週に1回、トイレを借りるという口実で訪問。少しずつ、母親はヘルパーの訪問を心待ちするようになり、次第に、必要な手助けをしてもらう関係になりました。

3か月が過ぎたころ、ヘルパーは「生協の助け合いサービスにスタッフ登録しました。これからも、サポートさせてください!」と母親に話しました。母親は快諾。こうして、ウソはバレることなく“本当”となったのです。

効果的なあの手、この手

相談するシニア

親に対し、ウソをつくことは賛否両論あると思います。けれども、ウソも方便という言葉があるように、傷つけるウソでなければ、ときには使いようなのではないでしょうか。

ヘルパーを拒否する親に困っている別の女性に丸山さんのところの話しをしたところ、「その方法、使えるかも!」とトライ。介護保険のホームヘルプサービスを入れることに成功しました。

子世代の多くが、親に受診やサービス利用をしてもらおうと悪戦苦闘しています。

いくつか紹介しましょう。

1.親が信頼を寄せる人から勧めてもらう

高齢の親は、「先生」と呼ぶ人を信頼していることが多いので、掛かりつけの医師から勧めてもらいます。

一方、現在の高齢者は子どものなかでもとくに「長男」を頼りにしている傾向が。そこで、男兄弟がいる場合は、大事な局面では長男から進言。

2.福祉用具給付や住宅改修サービスを利用

介護保険には福祉用具のレンタルや給付、20万円までの住宅改修サービスがあります。たとえば、滑りにくく安定感のある高齢者向けのシャワーチェアには2~3万円するものも。自分で買うのは躊躇する金額ですが、介護保険で1割負担なら、2万円の椅子を2000円で購入可(ケアマネジャーに要相談)。親に「介護保険ってお得」と理解してもらえたら、本来入れたかったサービスを入れます。

3.嘘も方便作戦

丸山さんはヘルパーを自分の友人と偽りました。ほかにも、こうした作戦の成功例は少なくありません。認知症の専門医に診てもらうことを拒む親に対し、「75歳以上は全員認知症の検査を受けることが義務になった」とか、「今月いっぱい認知症の検査が無料。来月から〇万円かかるらしいよ。お得だから、一度受けておこう」といって受診させることができた、という人もいます。

まとめ

親の性格や親子の関係性によって、どのようにアプローチすればよいかという正解はありません。

しかし、正攻法ではだめな場合は、あの手この手とトライしてみましょう。親がサービスを利用しない状況が続くと、家族だけでサポートを続けることになります。高齢の親の2人暮らしでは、共倒れを招きかねません。自らの“介護離職”につながることも……。それは何としても避けたいですね。

どうすれば良いかと判断に迷うときは、親の地元の地域包括支援センターで相談してみてください。丸山さんの母親が利用しているような有償ボランティアサービスから使ってみるのも一案です。また、介護保険では自立になるくらいの状況でも、要介護になるのを予防しようという観点で、自治体のホームヘルプサービスなどを利用できるケースもあります。


(情報は2021年3月25日時点のものです。)

この記事を執筆した人
太田 差惠子

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点でさまざまなメディアを通して情報を発信する。企業、組合、行政での講演実績も多数。AFP(ファイナンシャルプランナー)の資格も持つ。一方、1996年親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。

<主な著書>「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」「高齢者施設お金・選び方・入居の流れがわかる本」(共に翔泳社)、「遠距離介護で自滅しない選択」「親の介護で自滅しない選択」(共に日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)ほか

http://www.ota-saeko.com/

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