コラム

もう退院?自宅に戻って生活できる?そのとき慌てないために

この記事の内容

配偶者が病気やケガで入院すると、「1日も早く退院できますように」と願うと思います。しかし、とくにシニアの場合は、自宅に戻ってからの生活への不安から、相反する気持ちがもたげることがあります。

桜井道子さん(72歳/仮名/埼玉県)は夫(78歳)と戸建2階建ての自宅で夫婦2人暮らしです。

ある日、夫が心臓の疾患で倒れ、救急搬送。手術を受けました。ところが、1か月も経たないうちに、医師から退院を告げられたのです。「もちろん、夫の退院は嬉しいんですよ。でもね、嬉しいだけじゃない。こんな状態で連れて帰って大丈夫なのかと心配になりました」と道子さんは心の内を話してくれました。

入院できる期間は年々短くなっている

桜井さん夫婦の住まいは駅から車で15分ほどの閑静な住宅街にあります。夫が定年退職したあとに移ってきました。1人息子の長男は結婚し遠方で暮らしています。

「私は運転できないし、病院や買いものに行くにも不便で。バスの本数は少なくて、タクシーを利用することが増えました」と道子さん。

夫は話しかけても、ぼーっとしていることが多く、車の運転を再開できるかは疑問です。少なくとも当面はムリ。なんとか自分でトイレには行けても、入浴や外出には介助が必要でしょう。「冷たいようですが私としては、もうすこし入院していて欲しいというのが本音です」と道子さん。

道子さんの夫に限った話ではなく、入院期間は確実に短くなっています。厚生労働省の「患者調査」によると、平均入院期間は2017年には29.3日。1990年には44.9日だったので、27年間で15.6日も短くなっています。

入院期間が短くなっている理由は二つです。一つは、医療の進歩があげられるでしょう。内視鏡手術などの技術が確立し、日帰りや1泊の入院も珍しくなくなっています。

二つめは、国の施策によるものです。高齢化とともに高騰する医療費をおさえるため、入院日数をできるだけ短期化しようというもの。症状が落ち着けば退院して地域の診療所に通院、または訪問診療を受けることが推奨されています。医療機関の役割分担が進んでいるのです。

入院期間の短縮を実現するため、平たくいえば、患者が長期入院すると病院は儲からない仕組みになっています。過剰診療を抑えられる一方、「すぐに退院」という現状を招いているのです。

医療ソーシャルワーカーに相談を

入院期間の短期化により、道子さんのように「退院後の生活」に不安を抱える家族は増えています。本人に支援が必要であれば、だれかがサポートしなければなりません。

しかし、家族だけで何とかしようとすると、共倒れを招くことがあります。道子さんが頑張りすぎれば道子さんがからだを壊すことになるかもしれません。「遠方で暮らす息子にSOSすれば迷惑をかける……。彼は仕事と子育てに忙しくしている」ともいいます。

このようなケースでは、躊躇せず、専門家に相談しましょう。ある程度の規模の病院には「医療相談室」「地域医療連携室」などの名称の相談窓口があります。「医療ソーシャルワーカー」という専門職が配置され、入院中の本人や家族の相談に対応。

たとえば、「退院しても、家族だけではささえられない」と相談すれば、転院できる病院を紹介してくれることもあります。集中的なリハビリをおこなう「回復期リハビリテーション病院」や、急性期は脱したけれどもうすこし経過観察をおこなうための「地域包括ケア病棟」などがあります。自宅に戻って、近所の診療所で診てもらう方法や、訪問診療を受ける方法についても教えてくれるはずです。

医療ソーシャルワーカーは相談に応じることが仕事です。医師や看護師に聞きにくいことでも、遠慮せず、相談してみてください。費用はかかりません。 

入院中に退院後の生活の段取りをする

道子さんの夫のように、退院後に介護が必要であれば、家に戻る前に介護保険を申請しましょう。住んでいる地域を管轄する地域包括支援センターに、「夫の退院後の生活が不安」といって相談します。状況に応じて、介護保険の申請をサポートしてくれたり、自治体のサービスを提案してくれたりするでしょう。

歩行に不自由があるなら、退院する前に、「住宅改修」のサービスで手すりを備えたり、段差を撤去したりできるケースもあります。また、介護用のベッドや車いすをレンタルできる場合も。対象となるかどうかなど詳細については地域包括支援センターで聞いてみましょう。

「退院時ケアカンファレンス」で安心感アップ

退院日が決まると、「退院時ケアカンファレンス」と呼ぶ会議を開いてもらえます。主治医と看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどの病院スタッフと、地域包括支援センターなど在宅でケアに関わるスタッフで、退院後の医療と介護について検討するものです。もちろん、本人や家族も参加します。

両者が連携し、必要なケアを引き継いでもらえれば、安心して配偶者を退院させることができるでしょう。このとき、遠方で暮らす子どもにも参加してもらいましょう。家族間で現状を共有することができます。専門家がかかわってくれていれば、皆が前向きに考えられます。無理のない範囲でのそれぞれの役割やかかわり方についても相談しやすくなると思います。

まとめ

病気やけがで入院した場合、思いのほか、早い時期に退院の話が出てきます。国の施策により、入院できる期間は短くなっているためです。早めに、退院後の医療や介護について検討しましょう。病院の医療ソーシャルワーカーや、地元の地域包括支援センターのスタッフが力になってくれるはずです。

退院時には「退院時ケアカンファレンス」を開いて、病院側のスタッフと、自宅に戻ってからのケアスタッフが連携し今後のことを考えてくれます。本人や家族も参加します。子どもがいる場合は、できれば彼らにも参加してもらいましょう。わからないことや不安なことはしっかりスタッフに相談し、スムーズな在宅復帰を目指したいものです。


(情報は2021年10月31日時点のものです。)

この記事を監修した人
太田 差惠子

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点でさまざまなメディアを通して情報を発信する。企業、組合、行政での講演実績も多数。AFP(ファイナンシャルプランナー)の資格も持つ。一方、1996年親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。

<主な著書>「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」「高齢者施設お金・選び方・入居の流れがわかる本」(共に翔泳社)、「遠距離介護で自滅しない選択」「親の介護で自滅しない選択」(共に日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)ほか

http://www.ota-saeko.com/

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