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家族信託とは?メリット・デメリットやかかる費用など

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相続サポートセンター 司法書士 田中千尋
香川県出身・昭和62年生まれ。相続登記・家族信託・遺言執行等の業務に従事。
文学部出身で自身が苦労した経験から、難しい専門用語は使わず、出来るだけ分かりやすい説明を心がけております。
家族信託や遺言書の作成など、生前対策は思い立った日が吉日です。

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家族信託について知りたい方


この記事のポイント

  • 家族信託とは、自分自身が資産の管理ができなくなったときに備え、
    あらかじめ家族に対して資産を管理・運用または処分できる権限を与えておくこと
  • 委託者が判断能力を失っても弾力的に資産を管理できる
  • 家族信託を検討するなら、弁護士や銀行といった専門家に相談してみよう


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読者のなかには、不動産を人に貸していたり、不動産以外の現金や有価証券といった資産をもつ人も少なくないのではないでしょうか。

もし、認知症をはじめとした判断能力の低下や自身の死亡によってこれらの資産を自己管理できなくなった場合の備えとして、任意後見(成年後見制度の一つ)や遺言といった方法を選択するケースが一般的です。

一方、新たに「家族信託」という制度が誕生したことをご存じでしょうか。この記事では家族信託について解説します。

家族信託とは

家族信託とは、自分自身が健康上の問題などを理由に資産の管理ができなくなったときに備え、あらかじめ家族に対して資産を管理・運用または処分できる権限を与えておくことを指します。

家族信託を理解するうえで押さえておきたいのが、「委託者」と「受託者」、そして「受益者」の3者の関係です。それぞれの役割や立場としては以下のとおりです。

  • 委託者:自らの資産を預け、管理をお願いする人

  • 受託者:委託者から依頼され、資産を管理する人

  • 受益者:資産の利益を受ける人


たとえば、親が息子に対して資産の管理を委託する場合、委託者=親、受託者=息子ということになります。そして、一般的に委託者=受益者となるケースが多いですが、委託者以外にも複数の家族を指定することもあります。

以下は、委託者=受益者=親、受託者=息子を想定した場合の図です。

ちなみに、家族信託に似た制度として「任意後見制度」がありますが、任意後見制度の場合は裁判所の監督下で資産を管理しなければなりません。これに対し家族信託では、委託者が受託者を自由に選べるほか、契約内容も当事者間で決められ、受益者のためであれば資産運用も可能であり、自由度の高い資産運用ができます。

家族信託が活用できるケース

家族信託はどのような場面で活用できるのでしょうか。今回は代表的な3つのケースをもとに解説します。

1. 家族信託用口座を開設するケース

現金を家族信託として管理する場合、家族信託専用の銀行口座を開設し、そこで管理する方法があります。親の老後にかかる生活費や介護施設の利用料などを、家族信託専用の受託者名義の口座や信託口口座と呼ばれる委託者と受託者連名の口座から支出します。

2. 委託者が賃貸住宅を保有しているケース

アパートやマンションといった賃貸住宅を資産として保有している場合、万が一、親が認知症などにかかってしまうと適切な修繕や管理ができなくなるおそれがあります。

そのため、あらかじめ家族信託で子どもを受託者としておけば、適切なタイミングで修繕ができ入居者に迷惑をかける心配がありません。また、そもそも管理自体が難しくなってきた場合には、受託者の判断で不動産を売却することも可能です。

3. 委託者に障がいを持った子どもがいるケース

障がいをもった子どもがいる夫婦の場合、「自分たちがいなくなったあと、経済的な面で生活に支障をきたすのではないか」と心配になることもあるでしょう。そのような場合、受益者を障がいをもつ子ども、受託者を障がいをもたない子ども(きょうだい)に指定し、家族信託によって経済面で不安のある子どもに資産をのこすことができます。

家族信託のメリットとデメリット

家族信託によって資産を管理する場合、メリットがある一方でさまざまなデメリットも想定されます。家族信託を検討する際に押さえておきたいメリットとデメリットをくわしく解説しましょう。

家族信託の5つのメリット

家族信託のメリットとして挙げられるポイントは、主に以下の5点です。

1. 委託者の判断能力に問題が起こっても、資産管理が柔軟にできる

冒頭部分でも紹介しましたが、第三者に資産の管理を委託する任意後見制度は裁判所への報告義務があり、資産の柔軟な管理・運用が難しいという弱点があります。これに対し、家族信託の場合は、委託者に代わって受託者が資産を管理できます。

2. 遺言書と同様の効果がある

自身の資産の使いみちについては、遺言書を作成し指定することも可能です。しかし、遺言書の作成にあたっては厳格なルールがあり、決して簡単な作業ではありません。

家族信託の場合、遺言書より書類の書き方や手続きがシンプルにできる場合があるにもかかわらず、遺言書に近い効力があります。

3. 相続順位を決めておける

家族信託の場合、資産の所有者を受益者として指定するケースが一般的ですが、万が一、受益者が亡くなった場合でも、資産を承継する順番を指定しておくことも可能です。

たとえば、自分の死後には妻または子どもへ資産を承継することを示しておけば、遺産相続での争いを未然に防ぐこともできるでしょう。

4. 万が一、子どもが倒産・破産しても資産を守れる

家族信託には「倒産隔離機能」というルールがあり、万が一、受託者が経営する会社が倒産したり破産したりしても、家族信託の資産が差し押さえられるのを防ぎます。

5. 不動産共有によるリスクを軽減できる

不動産物件を兄妹など複数人で所有している場合、ひとりでも健康上の問題などで判断能力を失ってしまうと、所有者の意思確認がとれなくなってしまいます。その結果、不動産物件の売買はもちろん、建物の修繕といった必要な手続きが滞る可能性があります。

このようなリスクを軽減するために、家族信託によって代表者1名を受託者とすることも可能です。

家族信託の5つのデメリット

次に、家族信託のデメリットとして考えられるポイントを5つ紹介しましょう。

1. 受託者が資産を悪用する可能性を否定できない

家族信託の場合、後見人制度のような家庭裁判所への定期的な報告義務はなく、一見メリットばかりのように思えます。しかし、見方を変えてみると、家族信託で信託監督人や受益者代理人がいない場合には、受託者が資産を悪用しても監督できないというデメリットがあることも事実です。

2. だれも受託者になりたがらない可能性がある

家族信託の受託者になるということは、たとえば建物の管理や修繕の義務が生じるだけでなく、トラブルや損害が生じた場合にはその責任も負うことを意味します。また、固定資産税などの通知書も受託者宛てに届くため、煩わしい手続きが増える可能性もあるでしょう。

トラブルに巻き込まれたくない、万が一何かあったときの責任をとれないといった理由で、受託者になってくれる人が見つからないケースもあります。

3. 相続税の節税効果はない

家族信託の場合、資産名義は委託者から受託者へ変更されますが、財産権そのものは委託者であることに変わりはありません。そのため、名義は変わっていたとしても相続税は通常どおり課税され、節税対策には不向きといえます。

4. 遺留分侵害請求をされる可能性がある

家族信託で資産を継承する場合、法定相続人が遺留分を請求してくる可能性があります。もともと遺留分は遺言よりも権利が強いとされており、請求された場合に大きなトラブルに発展する可能性もあります。そのため、あらかじめ関係者同士で相談のうえ、遺留分侵害請求によってトラブルが起こらないよう対策を講じておくことが重要です。

5. 受託者が長期間、家族信託に拘束されてしまう

受託者はあくまでも資産を管理する立場であり、受益者に対して収支報告をおこなわなければならないケースもあります。また、不動産物件を承継した場合、建物の管理や税金の支払いなども受託者の義務となります。

家族信託契約の手続きが完了したら終わりではなく、それ以降毎年おこなわなければなりません。

家族信託をおこなうための4つのプロセス

実際に家族信託の契約を締結し運用する場合、どのようなプロセスを経ることになるのでしょうか。今回は4つの段階に分けて紹介します。

STEP1 信託契約の締結

まずは家族信託の内容を話し合い、信託契約を締結します。そもそも、なぜ家族信託を行うのか目的を確認し、委託者と受託者、受益者を明確にしておきましょう。直接的な関係者である3者の合意をとることはもちろんですが、それぞれの家族や親戚などにも意見を聞きながら、トラブルが生じないように配慮も必要です。

関係者同士の話し合いの結果は、信託契約書を作成のうえ内容を書面に残しておきましょう。なお、信託契約書に不備があるとトラブルの原因にもなりかねないため、内容に不備がないか弁護士や司法書士などに確認してもらうのがおすすめです。

STEP2 信託用口座の開設

家族信託用の銀行口座を開設し、そこに資産や利益分を入金し管理しましょう。なお、家族信託は新しい制度のため、金融機関によっては信託用口座の開設に対応できないところもあります。

STEP3 信託登記

不動産を承継した場合、不動産の名義を委託者から受託者へ変更する必要があります。また、これ以外にも信託の目的や委託者・受託者・受益者の情報などを登録する必要があり、これらの手続きを信託登記とよびます。

信託登記がなされていない、または不備がある状態だと、家族信託によって管理できないため注意しましょう。

STEP4 家族信託運用の開始

一連の手続きが完了したら、実際に家族信託のもとで資産の運用をスタートさせます。運用後は、たとえば賃貸住宅の家賃収入を計算し受益者へ報告したり、資産を売却したりなど、受託者は必要な手続きをおこないます。

家族信託にかかる費用

家族信託の手続きは専門的な知識が求められるため、法律の専門家へ相談・依頼するケースもあるでしょう。そのような場合、家族信託にかかる費用の内訳としては以下のとおりです。

専門家へ支払うコンサルティング料
30〜80万円
公正証書作成費用
3〜10万円
公正証書作成手数料
10〜15万円
登録免許税
不動産価格の1000分の4(土地の場合は1000分の3)

不動産が含まれていない場合には登録免許税は不要となります。また、コンサルティング料は資産の額によっても変動するため、あらかじめ確認しておきましょう。

家族信託に関連するサービス

家族信託の制度開始以降、民間企業のなかでも徐々に関連サービスが増えています。なかでも代表的なサービスを2つ紹介しましょう。

家族信託口座

千葉県の地方銀行である京葉銀行は、家族信託用として管理できる専用口座を開設しています。口座名義は「委託者◯◯ 信託口受託者△△」として登録され、一般口座と同様にキャッシュカードやネットバンキングも利用可能です。

また、家族信託にかかわる書類作成をサポートできる専門家の紹介や、信託契約にもとづく賃貸物件向け融資も取り扱っています。

ファミトラ

ファミトラとは、家族信託のコンサルティングやマーケティング事業を専門に手掛ける株式会社ファミトラが運営しているサービスです。

資産評価額が1億円未満の場合、初期費用は4万9800円(税抜)、年額費用2万9800円(税抜)で利用でき、家族信託にかかわる疑問や不安を専門のコーディネーターが解決しながら継続的にサポートするサービスです。

制度の特性を知って活用しよう

家族信託は委託者が判断能力を失っても弾力的に資産を管理できる反面、決して万能な制度ではありません。また、まだできて間もない制度であるため、判例なども少なくトラブルが起こった際は問題の解決が難しくなる可能性もあることを覚えておく必要がありそうです。

家族信託でできること、できないことをよく知ったうえで活用するのがおすすめです。

さらに、弁護士や銀行といった家族信託の専門家も相談相手になる点も覚えておくと安心です。


(執筆編集:NTTファイナンス 楽クラライフノート お金と終活の情報サイト編集部)

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